たんぱく質は筋肉や臓器など私たちの体を構成する主要物質だ。また、ホルモンや神経伝達物質などとして働き、生体内のさまざまな生命現象を担っている。このため、医薬品などとして有用なたんぱく質を生産する技術の開発競争が世界中で続いている。 三浦謙治教授(生環系)らの研究チームは、特定の遺伝子を組み込んだ細菌(アグロバクテリウム)をレタスに感染させ、その遺伝子から効率良くたんぱく質を生産することに成功した。レタスは都市部の植物工場で広く栽培されており、実用化されれば、有用たんぱく質を安価に大量生産できると期待される。 たんぱく質の生産方法は大きく分けて二つある。化学合成と、たんぱく質の遺伝子を生物に組み込んで作らせる遺伝子組み換えだ。このうち、生物を使った遺伝子組み換えでは、微生物や動物の培養細胞を使うのが一般的だった。植物を使う合成は、大腸菌などを使う場合に比べ、高度な培養装置などが不要でコストは低いものの、収量が低いことが課題だった。 三浦教授はベンサミアナタバコと呼ばれるモデル植物を使い、大腸菌利用に匹敵する世界最高効率のたんぱく質生産技術 「つくばシステム」を2018年に開発した。そして、医療用にも使えるシラカバ花粉のアレルゲンを生産するなど、世界的な注目を集めた。 つくばシステムの中核となっているのが、アグロインフィルトレーションという手法だ。 アグロバクテリウムという植物に感染する細菌に、有用なたんぱく質の遺伝子を組み込んでおく。そして実際に植物に感染させると、目的の遺伝子が植物の細胞に送りこまれ、有用たんぱく質が作り出される。 つくばシステムはナスやメロン、トマト、レタスなどタバコ以外の植物にも広く活用できる。問題はタバコに比べて収量が少ないことだったが、三浦教授は、レタスをターゲットに収量を増加させる手法を開発することにした。レタスは植物工場で栽培されている主要な野菜の一つで、タバコよりも普及が容易だと考えたのだ。 具体的には、レタスがもつウイルス感染に抵抗する免疫反応を抑制した。この反応を進める酵素の働きを阻害する遺伝子をレタスに注入した上で、 アグロインフィルトレーションを実施すると、たんぱく質の収量が従来の2・5倍になった。導入した遺伝子が異物とみなされにくくなったと考えられた。 「まだタバコの方が収量は多いが、さまざまな植物でつくばシステムを活用する土台ができた。大腸菌では作れないたんぱく質もある。企業などとも連携してさまざまなたんぱく質の生産に挑戦し、つくばシステムを社会に浸透させたい」と三浦教授は話している。(立花奏太=生物学類3年)
「つくばシステム」で社会貢献 レタスでたんぱく質を生産
代表者 : 三浦 謙治