酸化亜鉛(注1)の欠陥構造を制御することで、レアアース(注2)を用いずに、高強度かつ高感度な応力発光(注3)を実現しました。
指先で触れる程度の微弱な力でも鮮明に発光し、従来材料と比べて極めて高い感度を示しました。
放出される光は、生体を透過しやすい近赤外光(注4)で、超音波を利用して体内の情報を読み取る医療センサや、電源不要で橋梁などのひずみを監視するインフラ診断技術への応用が期待されます。
【概要】
機械的エネルギー(応力、ひずみ、振動など)を直接光に変換する応力発光材料は、電源や配線を必要としない自立型センサ材料として、インフラ診断や医療など幅広い分野で注目されています。東北大学大学院工学研究科の徐超男教授らの研究グループは、筑波大学および佐賀大学との共同研究により、レアアースを一切用いずに、酸化亜鉛で高強度かつ高感度な応力発光を世界で初めて実現しました。従来の応力発光材料は、高価なレアアースや複数の元素を必要とし、発光には強い力を必要とするという課題がありました。本研究では、酸化亜鉛に微量のナトリウムを添加することで、極めて高い感度と低コスト化を両立しました。放たれる光は体を透過しやすい近赤外光であるため、超音波によって体内の情報を読み取る医療センサや、インフラのひずみを電源なしで遠隔監視する技術など、安全・安心な未来社会を支える新技術への応用が期待されます。本成果は科学誌Advanced Scienceに2026年5月8日(現地時間)付けで掲載されました。tohoku.ac.jp
【詳細な説明】
研究の背景
機械的エネルギー(応力、ひずみ、振動など)を直接光に変換する応力発光
材料は、電源や配線を必要としない自立型センサ材料として、インフラ診断や
医療など幅広い分野で注目されています。
しかし、これまで実用レベルの強い発光を得るためには、複雑で制御の難し
い結晶構造を持つ材料や、レアアースの添加が不可欠と考えられてきました。
一方で、レアアースは資源確保や環境負荷の観点から課題が指摘されています。
また、従来の応力発光材料は、発光させるためにギガパスカル級の大きな力
を必要とすることが多く、日常的な微小振動や、体内を伝わる超音波のような
微弱な刺激には反応しにくいという感度上の課題もありました。
一方、今回着目した酸化亜鉛は、化粧品や日焼け止め、軟膏の成分として広
く用いられている、身近で安全性が高く、安価な材料です。さらに、その優れ
た半導体特性や発光特性から、次世代電子材料として長年にわたり世界中で研
究されてきました。こうした特性を応力発光材料へ応用する試みも進められて
きましたが、その潜在能力を最大限に引き出すための明確な設計指針は確立さ
れていませんでした。このため、レアアースを用いずに酸化亜鉛で強い応力発
光を実現することは困難と考えられてきました。
そこで本研究では、酸化亜鉛の電子状態や微細構造を制御することで、シン
プルな材料構成で高感度な応力発光を実現することを目指しました。
今回の取り組み
東北大学大学院工学研究科の内山智貴助教、音成航希大学院生(当時)、大
森令央奈大学院生、楊光発大学院生、徐超男教授らの研究グループは、佐賀大
学の鄭旭光教授(東北大学大学院工学研究科 特任教授)、筑波大学の西堀英治
教授、東北大学グローバルラーニングセンターの陳迎特任教授らと共同で、酸
化亜鉛の電子状態をナノレベルで制御する「欠陥エンジニアリング」を駆使し、
レアアースを一切用いずに、高感度で発光する新材料を開発しました。
開発した材料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子表面にクレーター状の特
殊な凹凸構造が形成されていることが分かりました。この独特な形状が、外部
から加えられた力を効率よく吸収し、材料内部のひずみへと変換することで、
高感度な発光に寄与していると考えられます。
さらに、東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータMASAMUNE-弐を
用いた第一原理計算(注5)により、酸化亜鉛の電子状態を解析しました。その結
果、微量のナトリウム添加によって、本来の酸化亜鉛には存在しない、電荷を
一時的に蓄える安定な欠陥構造が、酸化亜鉛の結晶に形成されることを明らか
にしました。また、近赤外発光が、亜鉛原子が抜けた欠陥(亜鉛空孔)に由来
することを突き止め、効率的な発光メカニズムも解明しました。加えて、酸化
亜鉛は一般にn型(注6)半導体として知られ、p型化は極めて難しいとされてき
ましたが、本研究で開発した酸化亜鉛は p 型の挙動を示すことも確認されまし
た。
これらの特殊な粒子構造と電子状態の制御による相乗効果により、従来材料
では強い力を必要としていた応力発光が、本研究の材料では数キロパスカルと
いう、指先で触れる程度の力でも明瞭に観測されました。
本材料は、生体を透過しやすい近赤外光を放つことから、超音波など外部か
らの微弱な振動によって体内の応力発光体を無電源で発光させ、生体情報の読
み取りなどに活用する次世代医療技術への応用が期待されます。将来的には、
バイオフォトニクスや光源技術への展開も期待されます(図1)。
学術的には、これまで不可欠と考えられてきたレアアースを用いず、ありふ
れた元素の組み合わせのみで高機能を引き出せることを示した点に意義があり
ます。これは、高価な資源に依存しない持続可能な材料設計の新たな指針を提
示するものです。
社会的には、安価で大量生産が可能な特性を活かした早期の社会実装を目指
しています。例えば、橋梁や風力発電設備などに塗布するだけで、目に見えな
い微小な劣化やひずみを光として可視化する技術の実現が期待されます。電源
や配線を必要としないため、老朽化が進むインフラの継続的な遠隔監視を低コ
ストで実現できる可能性があります(図2)。
今後の展開
今後は、本材料の利用を加速できるよう、企業および研究機関にサンプル提
供するとともに、量産化する材料メーカー、デバイス・システムメーカー、保
守・点検を担う企業、医療・検査機器メーカーなどとの共同開発を積極的に進
め、実用化に向けた実証研究を加速していく予定です。身近な材料である酸化
亜鉛を通じて、安全で持続可能な未来社会の実現に貢献していきます。
レアアース不要、酸化亜鉛で高感度な応力発光を実現 ―電源不要の近赤外発光で医療・インフラ応用に期待―
代表者 : 西堀 英治