術後再発をきたす「真菌潜在型の好酸球性副鼻腔炎」を新たに発見

好酸球性副鼻腔炎(ECRS)(注1)は真菌感染を伴わない疾患と考えられてきましたが、次世代シーケンサー(注2)を用いた高感度の解析により、ECRS患者の鼻腔内に多様な真菌
が常に存在することを初めて明らかにしました。
ECRS患者において、Alternaria(アルテルナリア)(注3)が検出された場合、検出されなかった場合と比較して、内視鏡下鼻副鼻腔手術後の再発リスクが有意に高く、独立した術後
再発の予測因子であることが明らかになりました。
Alternaria が検出された ECRS 患者の鼻ポリープ組織では IL-33(注4)の発現が亢進しており、Alternaria が上皮サイトカインを介した 2 型炎症を増悪させ、再発に寄与する可能性
が示唆されました。
概要
好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は鼻づまりや嗅覚障害をきたす難治性の疾患であり、内視鏡
下副鼻腔手術(ESS)後も再発率が高いことが課題となっています。これまでECRSは真菌感
染を伴わない疾患として分類されており、鼻腔内の真菌と術後再発との関連は明らかにされ
ていませんでした。
今回、福井大学医学部の足立直人特命助教、木戸口正典助教、藤枝重治教授および筑
波大学医学医療系の野口恵美子教授らの研究グループは、次世代シーケンサー(NGS)を
用いた真菌内部転写スペーサー(ITS)領域の解析により、134 名の慢性副鼻腔炎患者
(ECRS 81例、非ECRS 53例)および対照群34名を対象に鼻腔内真菌叢を網羅的に解析
しました。
その結果、ECRS を含むほぼ全群において真菌が常在することが示され、Malassezia・
Candida・Cladosporium・Aspergillus・Alternaria・Trametes・Schizophyllum の 7 属が主要真
菌として同定されました。また、ECRS 患者において Alternaria 検出例では術後無再発生存
率が有意に低く(P < 0.001)、多変量解析でもAlternariaのみが術後再発の独立した予測因
子(ハザード比 3.78)であることが判明しました。さらに、Alternaria 検出例では鼻ポリープ内
のIL-33発現が有意に高く、Alternariaが上皮サイトカインIL-33を介して2型炎症を増悪さ
せ、鼻ポリープの再発を引き起こす可能性が示唆されました。
本研究成果は、難治性のECRSの術後再発に対する新たな診断戦略の確立および個別
化医療の実現に向けた重要な一歩となるものです。
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〈研究の背景と経緯〉
好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は、鼻腔内にポリープ(鼻茸)が多発し、重度の鼻づまりや嗅覚
障害をもたらす難治性の疾患です。インターロイキン(IL)-5 や IL-13 などのサイトカインが過
剰に産生される2型炎症が原因とされており、内視鏡下鼻副鼻腔手術による治療後も高率に
再発します。近年、生物学的製剤などが治療に用いられていますが、術後再発を予測するバ
イオマーカーは十分に確立されていませんでした。
一方、ECRSは従来より真菌が関与しない疾患として分類されてきました。しかし、真菌は上
気道粘膜において T2 炎症を誘発することが知られており、ECRS の病態への関与が疑われ
ていました。従来の培養法では感度に限界があり、鼻腔内に真菌が常在するか否か、また真
菌とECRS術後再発との関連は未解明のままでした。
〈研究の内容〉
研究グループは、福井大学・筑波大学・獨協医科大学埼玉医療センターにおいて、ECRS 81
例・非ECRS 53例・対照群34名の計168名を対象に、中鼻道スワブサンプルから次世代シ
ーケンサーを用いたITS領域の解析(真菌メタゲノミクス)を実施しました。
【真菌叢の解析結果】
ECRS・非 ECRS を問わずほぼ全対象者において真菌が検出され、Malassezia・Candida・
Cladosporium・Aspergillus・Alternaria・Trametes・Schizophyllum の7属がコア真菌叢として同
定されました(図1)。なお、ECRS 群と非 ECRS 群の間で真菌叢の多様性や菌属構成に有意
差は認められませんでした。
【術後再発との関連】
ECRS 患者において Kaplan-Meier 法を用いた術後無再発生存率の解析を行ったところ、
Alternaria 検出例(約 20%)では非検出例と比較して有意に再発率が高く(P < 0.001)、
Candida 検出例でも有意な再発傾向が認められました(P = 0.015)。さらに多変量Cox回帰分
析では、Alternaria のみがECRSの術後再発における独立した予測因子(ハザード比3.78、P
= 0.002)であることが示されました(図2)。
【Alternaria 検出群における真菌叢と炎症応答の変化】
Alternaria 検出 ECRS 群では非検出群と比較して真菌多様性、真菌叢の構成も有意に異
なることが示されました。また Candida・Aspergillus・Cladosporium の有意な増加が認められ、
Alternaria が真菌叢の構成を変化させるドライバーとして機能する可能性が示唆されました。
さらに、Alternaria 検出患者の鼻ポリープ組織では IL-33 の遺伝子発現が非検出群と比較し
て有意に高く(P = 0.037)、Alternaria がIL-33シグナルを介してT2炎症を増悪させる可能性
が示唆されました(図2)。
〈今後の展開〉
本研究により、ECRS の術後再発において Alternaria が重要な役割を果たすことが明らか
になりました。今後は、術前にAlternaria 検出を評価することで ECRS 術後再発ハイリスク患
者を事前に同定し、個々の患者の病態に応じた治療戦略(個別化医療)を立案できる可能性
があります。また、Alternaria 潜在型 ECRS という新たな臨床表現型の確立に向けた診断基
準や治療管理方法の検討が期待されます。将来的には、Alternariaが誘発する炎症を標的と
した新規治療薬の開発にもつながることが期待されます。