「未使用農薬」まで分解するスーパー雑草の正体 ―万能デトックス酵素が除草剤を分解するしくみを解明―

代表者 : HENGPHASATPORN KOWIT  

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院生物制御科学部門の岩上哲史准教授、筑波大学計算科学研究センターのKowit Hengphasatporn助教、重田育照教授、筑波大学生命環境系の春原由香里准教授、松本宏教授(研究当時)、富山県立大学工学部の山口拓也講師らからなる研究グループは、水田雑草タイヌビエが一度も使われたことのない合成オーキシン系除草剤注1)に抵抗性を示すしくみを解明しました。タイヌビエは化学構造の異なる様々な除草剤を分解できる「万能型酵素」をもち、この酵素が他の除草剤とは構造が大きく異なる合成オーキシン系除草剤も分解できる分子レベルのしくみを明らかにしました。
本成果は、世界中の農業現場で問題となっている多剤抵抗性雑草がどのようにして生まれ
るのか、その分子基盤の一端を示すものであり、抵抗性雑草の発生予測や抵抗性を回避し
やすい次世代除草剤の開発への貢献が期待されます。
本研究成果は、Journal of Agriculture and Food Chemistry(6 月 16日付)に掲載されまし
た。
論文タイトル:Catalytic Promiscuity Underpins Metabolic Resistance to Auxinic Herbicides
in Echinochloa phyllopogon
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.6c02002
背景:除草剤抵抗性雑草は世界的な農業問題となっており、特に作用機構の異なる複数の除草剤に
同時に抵抗性を示す「多剤抵抗性雑草」の拡大が深刻化しています。本研究グループは、多剤抵抗
性の主要な要因の一つとして、シトクロムP450注2)と呼ばれる酵素による除草剤の解毒によること
を水田雑草タイヌビエの研究から明らかにしてきました。タイヌビエから特定されたシトクロム
P450 は複数の除草剤を分解できる万能型酵素であることは分かっていましたが、これまで報告され
ていた除草剤とは性質や化学構造が大きく異なる合成オーキシン系除草剤に対しても同じ酵素に
よって抵抗性がもたらされているのか、また、そのような幅広い基質認識能がどのようなしくみで
実現されているのかは明らかではありませんでした。
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研究体制:本研究は、東京農工大学大学院農学研究院生物制御科学部門の岩上哲史准教授、同大学
院連合農学研究科Danrui Su氏、筑波大学のKowit Hengphasatporn助教、重田育照教授、春原由香里
准教授、松本宏教授(研究当時)、富山県立大学の山口拓也講師、チェンマイ大学の Pattarasuda
Chayapakdee 氏、フィリピン大学のNiña Gracel Dimaano准教授から構成される国際共同研究グルー
プによって実施されました。なお、本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP15H06072、
JP17K15234、JP19H02955、JP23K23612)、 国 立 研 究 開 発 法 人 科 学 技 術 振 興 機 構 戦 略 的 創 造 研 究 推 進
事業(JPMJPR24N2)、チェンマイ大学基盤ファンド(214488)、Thailand Science Research and Innovation
(FRB690042/0162)の助成を受けて実施されました。
研究成果:米国カリフォルニア州では、ある除草剤を繰り返し使用していた水田から、その除草剤
が効かないタイヌビエが見つかっていました。詳しく調べたところ、このタイヌビエでは除草剤の
分解に関わるシトクロムP450に属する2種類の酵素(CYP81A12およびCYP81A21)が過剰に作ら
れていることが分かっていました。今回、このタイヌビエが、これまで使用されたことのない合成
オーキシン系除草剤に対しても抵抗性を示すことを明らかにしました(図1)。このことは、過去に
使用された別の除草剤への適応によって獲得した分解能力が、将来導入される新しい除草剤も分解
しうることを示しています。さらに、分子動力学シミュレーションなどを用いた解析により、なぜ
これらの酵素が多様な化学構造をもつ除草剤を認識・分解できるのか、そのしくみの一端を明らか
にしました(図2)。
今後の展開:本研究は、カリフォルニア州で見つかった除草剤抵抗性タイヌビエを用いて行われま
したが、このタイヌビエと同じしくみで複数の除草剤に抵抗性を獲得したタイヌビエが日本でも見
つかりはじめています。そのため、本研究で得られた知見は、国内で拡大しつつある抵抗性雑草の
診断や防除にも役立つことが期待されます。さらに、除草剤の分解に関与する酵素群の基質認識機
構の解明を進めることで、抵抗性発生リスクを事前に評価できる技術の開発や、分解による無効化
の影響を受けにくい新規除草剤の設計への応用が期待されます。