東京都立大学大学院理学研究科の村上将希 日本学術振興会特別研究員、髙山浩司 教授、同理学部の木藤俊太朗 学部学生、一般財団法人自然環境研究センターの森 英章 上席研究員、森林総合研究所の川上和人 地域研究監、筑波大学の上條隆志 教授、京都大学フィールド科学教育研究センターの中野智之 准教授らの研究チームは、小笠原諸島西之島において、2013~2020年の大規模噴火によって植生が完全に消失した後、初めてコケ植物およびシダ植物の生育を確認しました。
2025年7月に実施した上陸調査において、海岸近くの火山礫(スコリア)や火山灰堆積地で確認されたコケ植物および幼いシダ植物を採集し、形態観察およびDNA解析を行った結果、コケ植物1種(ユミダイゴケ)とシダ植物2種(イワヒメワラビ属の1種、タマシダ属の1種)が生育していることを明らかにしました。これらはいずれも胞子による長距離分散能力を持つ先駆的な植物であり、極めて孤立した海洋島においても植物の侵入が始まっていることを示しています。本研究成果は、西之島における一次遷移の開始を示す重要な発見であり、海洋島における生態系形成過程を解明するうえで重要な基礎資料となります。
3. 研究の背景
西之島は東京都小笠原諸島に属する海洋島*1で、父島の西方約130kmに位置しています。2013年から2020年に
かけて継続した大規模噴火により、島の面積は大きく拡大した一方で、既存の植生はすべて消失しました。この
ように生態系がほぼ完全にリセットされた海洋島は世界的にも極めて稀であり、植物や動物がどのように新た
な環境へ到達し、定着し、生態系を形成していくのかを観察できる「自然の実験場」として注目されています。
しかし、西之島は周辺に陸地がほとんど存在しない孤立した環境であるため、生物の移入は容易ではなく、噴火
後の植生回復がどのように始まるのかは不明でした。
図1. 2025年に撮影された西之島の様子
4. 研究の詳細
研究チームは、環境省による西之島総合学術調査の一環として、2025年7月に西之島へ上陸しました。調査可
能時間は数時間に限られていましたが、北東部海岸近くで複数の植物体を発見し、試料を採集しました。
採集した植物について形態観察とDNA解析を実施した結果、コケ植物のユミダイゴケ(Trematodon
longicollis)と、シダ植物のイワヒメワラビ属の1種、タマシダ属の1種であることが判明しました。発見さ
れたシダ植物は大きさ約1cm程度の幼い胞子体であり、侵入が比較的最近起こったことを示唆しています。また、
コケ植物は火山灰の侵食によって形成された小さな谷状地形に、シダ植物はその周辺のスコリア斜面に生育し
ていました。周辺では海鳥の営巣の痕跡も確認されました。
これらの植物はいずれも胞子による長距離分散能力を持ち、乾燥や強い日射、栄養分の乏しい環境にも生育
することが知られています。このような特性が、新たに形成された火山地形での生育を可能にしたと考えられ
ます。
図2. 西之島で発見されたコケ植物(左)とシダ植物(右)
図3. 栽培して成長したユミダイゴケ(左)、イワヒメワラビ属の1種(中央)、タマシダ属の1種(右)
5. 研究の意義と波及効果
火山噴火によって新たに形成された土地では、生物の侵入と定着を起点として一次遷移*2が進行し、新たな
生態系が形成されていきます。本研究で確認されたコケ植物とシダ植物は、西之島における陸上生物群集形成
の初期段階を示すものです。
アイスランドのスルツェイ島やインドネシアのクラカタウ島では、噴火後比較的短期間で多くの植物種が侵
入したことが知られています。一方、西之島では2013~2020年の大規模な噴火活動から5年以上が経過した現在
でも、確認された植物はわずかであり、極端な地理的孤立や塩害、淡水環境の不足が植物の定着を大きく制限し
ている可能性が示されました。
今後、これらの植物が定着・繁殖し、さらなる植物群落形成へつながるかを継続的に調査することで、海洋島
における一次遷移や生態系形成の仕組みをより深く理解できると期待されます。
西之島で噴火後初の植物の生育を確認:コケ植物とシダ植物が切り開く海洋島の生態系形成の第一歩
代表者 : 上條 隆志