イモリの組織再生を担う免疫細胞は皮膚に生じた線維化の退縮にも関与する ―再生生物はどのようにして傷跡なく再生するのか―

代表者 : 千葉 親文  

本研究グループは、アカハライモリ(Cynopspyrrhogaster)の持つ再生能力に着目した組織再生研究を行ってきました。本研究では、イモリ皮膚に線維化が生じたときに、その線維化が
自然に退縮するという現象を発見し、その過程にマクロファージ様免疫細胞が関与する可能性を示しました。この成果は、2026年8月1日「Inflammation and Regeneration」誌に掲載されました。
【背景】
ヒトを含む哺乳類では、皮膚に大きな傷を負うと元の組織を完全には
再生できず、線維化を伴った傷跡が残ります。一方、イモリは傷跡をほと
んど残さずに皮膚を再生できます。これまで、再生生物では線維化を回
避する仕組みに注目が集まってきましたが、いったん生じた線維化をど
のように処理するのかは十分に分かっていませんでした。
この傷の治癒や線維化の過程には、免疫反応が深く関わっていること
が知られています。そこで本研究では、強い免疫反応が予想される同種
皮膚移植をイモリに行ったときに、移植された皮膚と周囲の組織がどの
ような経過をたどるのかを検証しました。
【研究内容】
同種皮膚移植とは、別の個体から採取した皮膚を移植する手術法であ
り、ヒトでは、免疫系が移植皮膚を非自己と認識することで、最終的に皮
膚が脱落して傷を閉じきることができません。
高い再生能力を持つイモリがどのように反応するのかを調べたところ、移植皮膚は脱落せず、移植部に
留まるという予想外の反応を見せました。しかし、興味深いことに、自分の皮膚を用いて移植した場合には
見られなかった、移植部の隆起が確認されました。組織学的観察により、移植皮膚の下に線維化が形成さ
れていることが分かり、この線維性組織が移植部を膨隆させていると考えられました。加えて、皮下に形成
された線維化組織は時間とともに退縮していくことが明らかになりました。
これにより、イモリは非自己の組織に対して線維化を起こす一方、その線維化を退縮できるという新たな
可能性が見出されました。
続いて、この現象のメカニズムを探るために、組織再生への関与が知られている細胞群に着目しました。
先行研究では、再生能力を持つ有尾両生類において、クロドロン酸の投与によりマクロファージ様の細胞群
を減少させた際に、四肢再生が阻害されることが報告されています(Godwin, et al. PNAS, 2013)。こ
れは、この細胞群が組織再生の一端を担う可能性を示唆します。
本研究でもクロドロン酸を用いて同様の細胞群を減少させたところ、同種皮膚移植に対する線維化は、
引き続き形成されたものの、その後の線維化の退縮が遅れました。この結果から、組織再生の関与が知ら
れるこの細胞群が、形成された線維化の退縮にも関与する可能性が示唆されました。
【今後の展望】
本研究は、イモリの組織再生と線維化退縮の双方に、同じマクロファージ様の免疫細胞が関与する可能
性を示しました。今後の重要な課題は、免疫細胞の働きがどのように制御されているかを解明することだ
と考えています。近年、哺乳類において、感覚神経が免疫細胞の動員や性質を調整することで、傷の治癒が
最適化される新たなメカニズムが明らかになっています。さらに、イモリの再生力は免疫細胞だけでなく、
神経に強く依存することが知られています。そのため、現在我々は、神経と免疫の相互作用が組織再生に
果たす役割に着目した研究を進めています。ヒトの傷をより正常組織に近い状態へ修復する方法の発見を
目指して、今後も研究に励んでいきたいと考えています。