ゲートボール・グラウンドゴルフや筋力トレーニングが認知症発症のリスク低下と関連

代表者 : 大藏 倫博  

高齢者の認知症予防において運動の有効性は広く知られています。しかし、どのような運動の種目が認知症発症のリスク低下と強く関連するのかについては十分に検討されていません。
日本体育大学保健医療学部・永田康喜特任助教と筑波大学体育系・大藏倫博教授らの研究グループは、高齢者5,074名を対象に日頃実践している運動の種目を調査したうえで、実践している
種目と認知症発症との関連を4年間の追跡調査により検証しました。その結果、高齢者で実践率が高かった運動種目は、体操、ウォーキング、ゲートボール・グラウンドゴルフ、ゴルフ、筋力
トレーニングでした。これらのうち、ゲートボール・グラウンドゴルフと筋力トレーニングを実践している人は、運動を実践していない人に比べて、認知症発症のリスクがそれぞれ32%、74%
低いことが示されました。本研究により、運動の種目によって認知症発症リスクとの関連の有無や強さが異なる可能性が示されました。特に、ゲートボール・グラウンドゴルフといった巧みな道具操作を伴う運動や筋力トレーニングは認知症予防に有効な運動の候補として期待されます。
研究代表者
日本体育大学 保健医療学部 救急医療学科 特任助教
筑波大学 テーラーメイドQOLプログラム開発研究センター 客員研究員
永田 康喜
筑波大学 体育系 教授
大藏 倫博
研究の背景
認知症は、本人の生活の質の低下はもちろん、医療費や介護負担の増加を通じて社会にも大き
な影響を及ぼす課題です。日本においては、認知症の有病率が今後さらに高まることが予想され
ていることから1、有効な認知症予防策を確立することは喫緊の課題です。
認知症予防に有効な方策の一つに運動が挙げられます。先行研究の多くは運動量の多さに着目
しており2、どのような運動の種目が認知症発症リスクと関連するかについての検討は限られてい
ました。海外でおこなわれた研究では、有酸素運動や太極拳・ヨガ3、さらにはダンス4が認知症
発症のリスク低下と関連することが示されていますが、日本の高齢者を対象に、実際に取り組ん
でいる運動の種目と認知症発症との関連を検討した研究はほとんど見当たりません。
そこで本研究では、地域在住高齢者を対象に、日頃取り組んでいる運動の種目を調査し、認知
症発症のリスク低下と関連する種目を明らかにすることを目的としました。
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研究内容と成果
本研究は、茨城県笠間市在住の高齢者を対象に、2013年と2017年の2回の郵送調査で得られ
たデータを用いました。2013年の郵送調査では、年齢、性、教育歴、主観的経済状況、独居、睡
眠時間、主観的認知機能、抑うつ傾向、BMI、既往歴(高血圧、脂質異常症、糖尿病、心臓疾患、
関節・神経痛)といった解析上調整すべき要因に関する情報を取得しました。続く2017年の調
査では、日頃実践している運動の種目について自由記述にて回答を得て、17種目に分類しました。
この2017年調査を追跡開始時点(ベースライン)とし、それから約4年間の追跡を行い、認知
症発症との関連を検証しました。認知症の判定には、厚生労働省が基準を示す「認知症高齢者の
日常生活自立度」を用いて、ランクがⅡ以上となった場合に、認知症発症と定義しました。
本研究の解析対象者は5,074名(2013年調査時の平均年齢:73.0歳、女性:52.3%)でした。
運動の種目については、体操、ウォーキング、ゲートボール・グラウンドゴルフ(類似種目を含
む)、ゴルフ、筋力トレーニングの実践割合が高いことを確認しました(図1)。運動の種目ごと
に認知症発症との関連を検討したところ、ゲートボール・グラウンドゴルフと筋力トレーニング
の実践者は、運動の非実践者に比べて、認知症発症のリスクがそれぞれ有意に低いことが示され
ました(ゲートボール・グラウンドゴルフ:32%のリスク減、筋力トレーニング:74%のリスク
減 )( 図 2)。ゲートボール・グラウンドゴルフは巧みな道具操作が求められるスポーツであり、
脳への良い刺激となっていると考えられます。一方、筋力トレーニングは、脳への血流増加や神
経栄養因子の分泌などを介して、認知機能の維持・向上に寄与している可能性があります。これ
らの結果から、運動の種目によって認知症発症のリスクは異なる可能性が示され、ゲートボール・
グラウンドゴルフや筋力トレーニングの実践は、認知症予防に有効な運動の候補として期待され
ます。
研究の限界と今後の展開
本研究には限界点もあります。はじめに、運動と認知症の関連を考えるうえで重要な要因であ
る運動の実践時間については考慮できておらず、実践時間が長ければ認知症発症のリスク低下と
関連するかもしれない種目を見落としている可能性があります。次に、本研究で検証できた運動
は5種目にとどまり、検証できなかった種目も数多く残されています。また、本研究では他の種
目の実践状況については考慮できていません。例えば、ゲートボール・グラウンドゴルフの実践
者には、他の運動も実践している人が含まれているため、各運動種目単独の影響が厳密に反映さ
れていない可能性があります。最後に、本研究において特に認知症発症のリスク低下との関連が
認められた筋力トレーニングについては、実践者が少ないことから、この関連が過大に推定され
ている可能性があります。今後、運動種目と認知症発症との関連をより詳細かつ正確に検証して
いくためには、調査項目をより充実させた上での大規模な研究の展開が求められます。