金属原子を一つひとつ孤立させて固定化した単原子触媒は、金属資源を効率よく利用できる次世代触媒として注目されていますが、Ruのような貴金属は含有量を増やすと原子同士が凝集しやすく、高密度な単原子触媒の実現が困難でした。東北大学、筑波大学、京都大学、アイントホーフェン工科大学、金沢大学および大阪大学の研究グループは、Ruを含む前駆体の分子構造を精密に設計し、これを炭素化するボトムアップ合成法(注7)により、最大11重量%のRuを単原子状態で炭素材料中に固定化することに成功しました。得られた触媒をCO2の水素化反応に適用し、99%以上の選択率でギ酸を生成するとともに、繰り返し使用しても Ru 原子の凝集が見られず、触媒性能が維持されることを実証しました。本成果は、凝集しやすい貴金属を高密度に単原子状態で固定化する新しい材料設計指針を示すものです。
本研究成果は、2026年9月3日(中央ヨーロッパ時間)に、ドイツ化学会の学術誌 Angewandte Chemie International Edition に掲載されました。tohoku.ac.jp
【詳細な説明】
研究の背景
単原子触媒は、触媒活性点となる金属を原子 1 個ずつ担体上に分散・固定化
した触媒です。理論上、すべての金属原子を触媒反応に利用できるため、貴金
属使用量の削減と高い触媒性能を両立できる次世代触媒として注目されていま
す。例えば、Ru単原子触媒は、水素化反応やアンモニア合成など幅広い触媒反
応で優れた性能を示すことが知られています。一方、実用的な触媒として高い
反応性能を発揮するためには、活性点となる単原子を高密度に固定化し、単位
重量当たりの活性点数を増やすことが重要です。しかしながら、Ruをはじめと
する貴金属種は単原子状態で不安定であり、触媒の調製時や反応条件下で容易
に凝集するため、高密度な単原子触媒を合成することが課題となっていました。
本研究グループは、金属ポルフィリン錯体(注8)などの前駆体分子結晶を直接
炭素化する独自のボトムアップ合成法により、原子状分散した金属が炭素骨格
中に規則的に固定化された「規則性炭素化物構造体(Ordered Carbonaceous
Framework, OCF)」(注 9)を開発してきました。これまで、ポルフィリン配位子
を用いた前駆体設計では、主にFe、Co、Niなどの3d卑金属種を対象としてき
ました。一方で、Ruのような原子サイズの大きな貴金属種への展開は、ポルフ
ィリンのような剛直な環状配位子では困難でした。
今回の取り組み
東北大学多元物質科学研究所の吉井 丈晴 准教授、同大学材料科学高等研究所
(WPI-AIMR)の西原 洋知 教授、筑波大学数理物質系の千田 晃生 助教(東北
大学在籍時より本研究に従事)、京都大学大学院工学研究科のTan-Hao Shi博士
(研究当時)、生越 友樹 教授、大阪大学大学院工学研究科の桒原 泰隆 准教授ら
の研究グループは、これまでポルフィリン系前駆体を中心に展開してきたOCF
型単原子触媒の分子設計を拡張し、従来の剛直な環状配位子に代えて、柔軟な
配位構造を形成できるターピリジル配位子に着目し、新しい Ru 錯体前駆体を
設計・合成しました(図1a)。この前駆体分子結晶を窒素雰囲気下、700℃以下
で熱処理することで、Ru原子を含むOCF(Ru-OCF)へと変換することに成功
しました(図1b)。高角度散乱暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)
による観察から、Ruが粒子を形成せず、単原子状態で炭素骨格中に規則的に配
列していることを確認しました(図1c)。さらに、X線吸収微細構造(XAFS)
解析(注10)などから、炭素化後も前駆体に由来するRuと窒素の配位構造が保た
れ、Ru原子同士の結合が形成されていないことが示されました。また、元素分
析から、得られた材料は最大11重量%のRuを含むことが分かりました。これ
まで報告されているRu単原子触媒では、Ru含有量が2重量%前後にとどまる
例が多い中、本研究では最大11重量%という高い含有量を実現しました。以上
の結果から、前駆体分子の配位構造を拡張して設計することで、これまで適応
が困難であった Ru についても、単原子状態と高い含有量を両立して炭素骨格
中に固定化できることが明らかになりました。
さらに、得られた単原子Ru触媒をCO2水素化反応に適用したところ、99%
を超える高い選択率でCO2をギ酸へと転換しました。単原子触媒では、反応中
の金属原子の凝集による性能低下が課題となる場合がありますが、本触媒では
繰り返し使用しても触媒活性はほとんど低下せず(図 2a)、XAFS 解析などか
ら触媒反応後もRu原子の凝集は確認されませんでした(図2b)。
今後の展開
本成果は、凝集しやすい貴金属を単原子状態で高密度に固定化するための、
新しい材料設計指針を示すものです。今回用いたターピリジル配位子は、Ruだ
けでなく、白金やパラジウム、イリジウムなどさまざまな貴金属と錯体を形成
できます。そのため、本手法を応用することで、Ru以外の貴金属についても、
高密度な単原子触媒を構築できる可能性があります。
このような展開により、希少な貴金属を原子レベルで有効利用する触媒材料
の開発につながることが期待されます。今後は、今回実証したCO2資源化反応
に加え、有機合成反応などさまざまな触媒反応への展開を目指します。
図1.(a)本研究で前駆体として使用したRuターピリジル錯体。(b)ボトムア
ップ合成手法により OCF が得られる様子。(c)得られた Ru-OCF の HAADF
STEM像。
図2. (a)Ru-OCF を用いた繰り返し CO2水素化反応試験による耐久性評価、
(b)触媒反応前後のXAFS解析から得られたRu周辺の局所構造を示す動径構
造関数。反応前後ともRuと窒素の結合に由来するピークのみが見られ、Ru原
子同士の結合に由来するピークは確認されないことから、Ru原子が凝集せず、
単原子状態を維持していることが示されます。