子どもの頭の中に浮かぶ言葉(内言)を測定することには、これまで多くの難しさがありました。本研究では、「1から5までの数字を数える」という非常に身近な行為を用いることで、内言が幼児期を通して徐々に安定的なものとなり、5歳前後が発達的な一つの目安となる可能性が示されました。
私たちは、声には出さなくても、頭の中で自分自身に語りかけたり、言葉を使って思考を巡らせたりします。このような「頭の中の言葉」は「内言」と呼ばれ、注意や自己のコントロールなど、さまざまな認知活動に関わると考えられています。しかし、幼い子どもは自分の心の中で起きていることを言葉で十分に説明することが難しいため、内言がいつ、どのように発達するのかを客観的に調べることには大きな課題がありました。
そこで本研究グループでは、3~6歳の幼児および成人を対象に、「1、2、3、4、5」と頭の中で5まで数えることを、同じペースで複数回繰り返す課題を実施しました。そして、その数唱にかかった時間が各回でどの程度ばらつくかを、声に出して数える条件と比較することで、内言の安定性を検討しました。また、このような頭の中で数えることの安定性が、内言という現象についての知識や理解とどのように関係するのかを調べるため、「人は内言が可能かどうか」を尋ねる質問も実施しました。
その結果、成人は幼児に比べて内的に数唱する時間のばらつきが全体として小さく、幼児の中でも、月齢が高くなるほど頭の中で数える際の時間のばらつきが小さくなりました。これは、幼児期を通して、頭の中での数えることが徐々に安定していくことを示します。また、こうした時間のばらつきとは別に、課題を指示通りに遂行できたかという点でも年齢に違いがみられました。「声を出さない」「指や唇などを動かさない」といった指示を守って頭の中で数えられた子どもは、そうでない子どもよりも月齢が高く、声や指などに頼らず頭の中だけで数を数えることができる目安は5歳ごろであることが示されました。さらに、内言についての理解を確認する質問では、成人のほとんどが「人は頭の中で言葉を使える」ということを理解していたのに対し、幼児ではそのような理解はまだ一貫してみられませんでした。これらの結果から、幼児は内言について明示的に理解したり報告したりすることが難しいものの、この時期を通じて頭の中で数を数えるといった内的な言語活動は徐々に可能になることが示唆されました。
本研究の成果は、大掛かりな装置や複雑な課題を使用せずとも、「数を数える」という非常に身近な行動から、他者には知覚できない「内なる言葉」の発達過程を捉えられる可能性を示しています。
PDF資料
プレスリリース
研究代表者
筑波大学体育系
大谷 康太 非常勤研究員(立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程・聖ヶ丘保育専門学校教員)
桑水 隆多 助教
京都大学大学院文学研究科
森口 佑介 教授
掲載論文
- 【題名】
- The developmental origin of inner speech: Evidence from a mental counting task in 3- to 6-year-old children
(内言の発達的起源:3~6歳児を対象としたメンタルカウンティング課題の知見から) - 【掲載誌】
- Acta Psychologica
- 【DOI】
- 10.1016/j.actpsy.2026.107716
関連リンク
体育系