高齢者と介護者の「減薬したい気持ち」に関わる要因を解明した研究が Geriatrics & Gerontology Internationalに掲載されました

高齢者では複数の病気を抱えることで薬剤数が増え、副作用や服薬負担が問題となることがあります。そのため、医師と患者が相談しながら薬を減らしたり中止したりする「減薬」が重要視されています。しかし、減薬を進めるためには医学的な判断だけでなく、患者本人や介護者の理解と納得が不可欠であるにもかかわらず、日本では高齢者や介護者の減薬への考え方について十分な知見がありませんでした。
本研究では、調剤薬局を利用する高齢者326人と、別に募集された介護者216人を対象に、それぞれ独立した調査を実施し、「もし医師が可能というならばお薬を減らしたいか」とした減薬への意向に関連する要因を分析しました。その結果、高齢者では、薬について理解し治療方針の決定に関わろうとする姿勢が強い人ほど減薬に前向きでした。介護者では、服薬介助や金銭を含めた負担感や薬への関与に加え、医師への信頼も減薬への意向と関連していました。また、高齢者と介護者の双方において、現在の薬を適切であると認識していることは減薬への意向の低さと関連していました。本研究は、日本において高齢者および介護者の減薬への意向に関連する心理的要因を定量的に明らかにした初めての研究です。患者や介護者がどのような考えを持っているかを把握しながら対話を進めることは、納得感のある服薬や、より安全な薬物治療の推進につながることが期待されます。
研究代表者
北海道科学大学 薬学部
石井 充章 講師
筑波大学医学医療系
舛本 祥一 講師
慶應義塾大学医学部
大谷 壽一 教授

研究の背景
高齢化の進展に伴い、複数の疾患を抱える高齢者が増加し、薬剤数の増加による副作用や服薬負担が課題となっています。このため、医師と患者が相談しながら不要な薬や有害事象のリスクが高い薬を減らしたり中止したりする「減薬」が、薬物治療の適正化に向けた重要な取り組みとして注目されています。医療者を対象とした安全な薬物治療のためのガイドラインの整備が進む一方で、減薬を進めるためには医学的な判断だけでなく、患者本人や介護者の理解と同意が欠かせません。しかし、日本では高齢者や介護者が減薬をどのように捉え、どのような考え方が減薬への意向と関連するのかについて十分な知見がありませんでした。そこで本研究では、高齢者と介護者を対象に、減薬への意向とその関連要因を明らかにすることを目的として調査を行いました。
研究内容と成果
本研究では、高齢者および介護者が減薬に対してどのような考えを持ち、その意向にどのような要因が関連しているのかを明らかにするため、質問票を用いた横断調査を実施しました。調査対象は、3か月以上継続して1つ以上の薬を使用している65 歳以上の高齢者 326 人と、要介護高齢者を支援する介護者216 人です。なお、高齢者は調剤薬局を利用する比較的自立した高齢者から構成され、介護者は要介護高齢者を支援する介護者から構成されており、両群は患者・介護者の対応関係を持たない独立した調査集団です。そのため、本研究は両群を直接比較することではなく、それぞれの集団において減薬への意向に関連する要因を明らかにすることを目的としました。評価には、減薬に対する態度を測定する国際的な質問票である rPATD(revised Patients’ AttitudesTowards Deprescribing)日本語版注1)を用いました。rPATD では、「もし医師が可能というならばお薬を減らしたい」とする“減薬の意向”のほかに、「Burden」「 Appropriateness」「 Concerns about stopping」「Involvement」の4 つの側面から減薬に対する態度を評価できます。調査の結果、医師が可能と判断した場合に減薬を希望すると回答した人は、高齢者では61.7%、介護者では 31.5%でした。高齢者においては、薬について理解し治療方針の決定に主体的に関わろうとする「薬への関与」が高い人ほど減薬への意向が高く、現在服用している薬を適切で必要なものと認識している人ほど減薬への意向が低いことが分かりました。(図1a)一方、介護者では、高齢者とは異なり複数の要因が減薬への意向と関連していました。薬の管理や服薬に伴う負担感が大きいこと、薬への関与が高いことは減薬への意向の高さと関連していました。反対に、現在の薬を適切であると考えていることや、薬を中止することへの不安が強いことは、減薬への意向の低さと関連していました。また、医師への信頼が高い介護者ほど減薬への意向が高いことも明らかになりました。(図1b)これらの結果から、高齢者・介護者のいずれにおいても、薬が本当に必要かを考える視点や、薬物治療に主体的に関わる姿勢が減薬への意向と関連していることが示されました。また、介護者では患者本人の状態や医師との関係性も意思決定に関わる可能性が示唆されました。本研究は、日本の高齢者と介護者を対象として、減薬への意向に関連する心理的要因を定量的に明らかにした初めての研究であり、患者・家族と医療従事者が対話を重ねながら薬物治療を見直すための基礎的知見を提供するものです。これらの知見は、患者中心の医療の推進と薬物治療の安全性向上に貢献することが期待されます。

今後の展開
本研究では、高齢者や介護者の減薬への意向に関連する心理的要因が明らかになりました。今後は、薬物治療への関与を高める患者支援や、患者・介護者と医療従事者との対話を促進する介入の方策を開発し、それらが実際の減薬や薬物治療の安全性向上につながるかを検証する必要があります。これらの取り組みを通じて、患者中心の意思決定を支援し、安全で質の高い薬物治療の実現に貢献することが期待されます。