肺大細胞神経内分泌癌の新たな分類を提案 ―全ゲノム・空間オミクス解析による新たなサブタイプの同定―

代表者 : 松岡 亮太  朝山 慶  松原 大祐  

東京大学大学院新領域創成研究科の鈴木穣教授および鈴木絢子教授らの研究グループは、筑波大学および自治医科大学との共同研究において、ロングリードシークエンス解析(注 1)と
空間トランスクリプトーム解析(注 2)技術を用いて、希少がんである肺大細胞神経内分泌癌(Large Cell Neuroendocrine Carcinoma)の分子的特徴を明らかにしました。
本研究では、これまでの先行研究では十分に捉えられていなかった複雑なゲノム構造変異(注3)や、がん細胞とがん微小環境(注4)における遺伝子発現状態を詳細に計測しました。
これらの研究成果は、将来、がんの分子プロファイルに基づいた分類が新しいがん治療の開発につながることが期待されます。
本成果は、「Nature Communications」に 2026 年 10月 21日に掲載されました。
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発表内容
肺がんではさまざまなゲノム変異、エピゲノム異常(注5)、遺伝子発現異常など、さまざま
なレベルで分子異常が生じています。近年、これらを計測することができる大規模オミクス計
測技術の発展により、肺がん組織でどのような分子異常が生じているのかが明らかになってき
ました。
本研究で着目したLCNEC は、肺がん患者全体の約3%とまれながんで、がん細胞の増殖が速
く、悪性度が高いことが知られています。
これまでの先行研究でも分子の解析が行われ、ゲノム変異が多く、小細胞がん様タイプと非
小細胞がん様タイプがみられること、転写因子・転写共役因子(注 6)の遺伝子発現パターン
によって4つのサブタイプ(神経内分泌タイプのASCL1およびNEUROD1、非神経内分泌タイプ
のPOU2F3 および YAP1)に分けられることなどが報告されてきました。いくつかの分類法が提
唱されてきましたが、LCNEC は非常に多様ながんであるため、既存の分類には当てはまらない
症例も存在していました。
今回、本研究チームは、ロングリードシークエンス技術によって複雑なゲノム変異構造を同
定するとともに、1細胞レベルでの空間オミクス解析(注7)を実施しました。その結果、LCNEC
のゲノムとトランスクリプトームに関する新たな特徴を明らかにし、各サブタイプの診断・治
療法につながる新たな分類を提案しました。
まず、ロングリードシークエンス解析を実施し、LCNEC におけるゲノム変異を調べました。
その結果、従来のゲノム解析手法では検出できなかった大規模なゲノムの構造変異を検出しま
した。特に、がん抑制遺伝子内の複雑な構造変異や広範囲の欠失が、LCNEC の発生に大きく寄
与していることが示唆されました。また、近年注目されている染色体外DNA(注8)も検出し、
MYC 遺伝子をはじめとするがん関連遺伝子の増幅に関わるゲノム構造変異を、より正確に同定
しました。
さらに、空間トランスクリプトーム解析を用いて、組織切片上でがん細胞がどのような遺伝
子を発現しているかを解析しました。その結果、これまで同定されてきた神経内分泌タイプと
非神経内分泌タイプ、それぞれの発現パターンを示すがん細胞が同一組織上に存在する「混合
タイプ」や、これらの遺伝子を同一細胞にて発現している「共発現タイプ」があることがわか
りました(図1)。また、これらサブタイプが相互に変化する可能性が示唆されました(図1)。
図1:空間トランスクリプトーム解析による新たなサブタイプの特徴づけ
(左図)1細胞空間トランスクリプトーム解析Xeniumにより取得したLCNECの組織上で遺伝子発現情報を用
いて、がん細胞・正常上皮細胞を分類して色分けしています。神経内分泌タイプ、非神経内分泌タイプの症
例に加えて、神経内分泌タイプ・非神経内分泌タイプのがん細胞が同一組織上に共存する混合タイプと、同
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一細胞内で神経内分泌タイプ・非神経内分泌タイプの遺伝子発現パターンを示す共発現タイプが見出されま
した。(右図)全遺伝子を解析可能な空間トランスクリプトーム解析Visiumのデータを用いて、ワディント
ンランドスケープ様の細胞マップを描画しています。共発現タイプは、神経内分泌タイプ、非神経内分泌タ
イプの中間的なパターンを示しています。
さらに、がん細胞の周囲にいる細胞の特徴を調べたところ、YAP1タイプと共発現タイプでは、
腫瘍の増殖や転移に関わる間質細胞(注 9)の割合が有意に高いことが明らかになりました。
各サブタイプにおいてがん微小環境の状態の違いがあることが明らかになり、将来、こうした
違いを免疫チェックポイント阻害剤(注10)などの治療法に対する効果を層別できる可能性が
示唆されました。
本研究では、LCNEC におけるさまざまなゲノム変異が同定するとともに、新たに共発現タイ
プ・混合タイプを確認しました(図2)。 さらにサブタイプごとにがん微小環境の状態が異なる
ことも明らかにしました。今回同定したゲノム変異や遺伝子発現パターンは、LCNEC のサブタ
イプの分子的背景や進行メカニズムの理解を深め、将来、それぞれのサブタイプに応じた治療
標的の発見につながることが期待されます。