2014/10/29
研究成果のポイント
1. 生物の設計図である遺伝子(DNA)およびその発現量(mRNA)を肉眼で超高感度に検出・定量する手法を開発しました。
2. 酵素を用いる従来法とは異なり、新手法では金ナノ粒子表面でDNAどうしを化学反応によって連結させる「クリック・ケミカルライゲーション連鎖反応」により、酵素を用いずに標的DNA(RNA)を増幅できることが明らかとなりました。 新手法では標的遺伝子の1塩基変異を区別することが可能です。
3. 癌などの疾病およびウイルスの感染に対する診断への広い応用が期待できます。
研究の概要
筑波大学数理物質系の大石基講師と筑波大学大学院数理物質科学研究科の加藤大喜(博士前期課程1年)は、生物の設計図である遺伝子(DNA)およびその発現量(mRNA)を肉眼で検出・定量できる簡便な手法を開発しました。
今回の研究は、金ナノ粒子表面でDNAどうしを化学反応により連結させる「クリック・ケミカルライゲーション連鎖反応」を開発し、この連鎖反応と磁性粒子を組み合わせることにより、調整した上澄み溶液の色の変化(赤→ピンク:経時的な色の変化は起きない)を肉眼または紫外可視吸収スペクトルによって検出することで、遺伝子およびその発現量を検出・定量できる超高感度な手法を開発したものです。この新手法により、標的遺伝子の1塩基変異を区別することすることにも成功しました。この新手法には、①酵素を用いる従来法とは異なり、mRNAからDNAへの変換が不要、②酵素を用いないので生体物質の阻害を受けない、③肉眼で検出できるため特別な検出装置が不要で簡便、超高感度・高選択的である等の特徴があります。癌などの疾病およびウイルスの感染に対する診断への広い応用が期待できます。
図1 本研究で開発した新手法の原理
クリック・ケミカルライゲーション連鎖反応(枠で囲った部分)を進行させた上で、ストレプトアビジンを有する磁性粒子を溶液に加え、ビオチン化DNA金ナノ粒子と磁性粒子の複合体を形成させます。その複合体を磁石により分離し、分散状態のDNA修飾金ナノ粒子が存在する上澄み溶液の色の変化(赤→ピンク:経時的な色の変化は起きない)を肉眼または紫外可視吸収スペクトルにより検出します。
図2 種々の標的DNA濃度(0~100 aM: aM = 10-18 M)における上澄み溶液の写真と紫外可視吸収スペクトルの測定から決定したシグナルの関係(0 aMのとき、シグナル=1.00)
図3 種々の標的RNA濃度(0~100 aM: aM = 10-18 M)における上澄み溶液の写真
図4 種々の1塩基変異を有する標的DNAを用いたときにおける上澄み溶液の写真(標的DNA濃度:100 aM)
掲載論文
【題名】Ultrasensitive Detection of DNA and RNA Based on Enzyme-Free Click Chemical Ligation Chain Reaction on Dispersed Gold Nanoparticles
(分散した金ナノ粒子表面での酵素フリークリック・ケミカルライゲーション連鎖反応に基づくDNAおよびRNAの超高感度検出)
【著者名】Kato D., Oishi M. (加藤大喜、大石基)
【掲載誌】ACS Nano, 8(10):9988-9997, 2014.
【掲載日】2014年10月28日