前田修助教の派遣先での研究状況レポート(8月)が公開されました

代表者 : 前田 修  

2014年11月よりユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン (University College London, UCL) の考古学研究所 (Institute of Archaeology) に派遣されている前田修助教の派遣先での研究状況をご紹介いたします。

 

 人類史における初期農耕社会の発達過程をあきらかにすることは、現代の文明社会の来し方を理解するために不可欠な研究課題といえます。そのため、人類が数百万年にわたり続けた狩猟採集生活を離れ、農耕牧畜を基盤とする食糧生産社会にはじめて移行した地として知られる西アジアの先史時代社会を考古学的に解明することは、単なる地域史研究の枠を超えたグローバルな視点での人間社会の研究に直結します。

 この課題に取り組むべく、私は2014年11月より、University College London (UCL)のInstitute of Archaeologyにて研究を実施しています。この研究所は、100名近い考古学の教員と数百名の学生を抱える世界有数の考古学研究拠点であり、資料や情報が常時集積され、さまざまな専門分野の研究者との共同研究が可能な良好な研究環境を生かして研究をおこなっています。先史農耕社会の解明にあたっては、遺跡から出土する炭化した植物遺存体の分析をもとに植物栽培の実態を復元する作業と、食糧生産社会における人間活動を物質文化から復元する作業を同時に進める必要があります。そのため渡英後すぐに、植物考古学の専門家であるUCLのドリアン・フラー教授との共同研究を立ち上げました。植物遺存体の分析を担当するフラー教授および他1名と、考古遺物(おもに石器)の分析を担当する私自身、さらに統計分析の専門家を加えた4名で研究プロジェクトをスタートさせています。

 研究計画として、1)基礎データの収集、2)データの統計的分析と考察、3)第一次成果発表、4)研究テーマの拡大とフォローアップ論文の執筆、といったステップをロードマップとしています。これまでに、対象とする約300遺跡のデータの収集・分析をすでに終えており、広範囲の時代・地域を対象にした大量のデータを分析することで、農耕社会の発達が経済的要因よりも文化的要因によって大きく左右されるものであり、かつ多元的なものであったという知見を得るに至っています。現在は、3)の段階として成果発表の準備を進めていますが、さらに次の段階へ移行する準備として、UCLでのこれまでの研究成果を発展させるべく今後の研究を計画する一方、レディング大学のロジャー・マシュー教授、マンチェスター大学のスチュアート・キャンベル教授との共同研究をそれぞれ企画しています。

 マシュー教授との研究では、イラク共和国クルディスタン自治区での資料調査をすでに実施しており、研究基盤を整えています。私の博士課程留学時の指導教官であるキャンベル教授とはこれまでにもいくつかの共同研究をおこなっていますが、今後は物資交易をテーマに初期農耕社会にアプローチするため、この時代のおもな交易品であった黒曜石の理化学分析を軸とした先史時代交易研究を進める予定です。

今後は、ロンドン、レディング、マンチェスターの英国内三拠点にわたってそれぞれの研究を進めるとともに、これらの大学の研究者と筑波大学の連携を深めていきたいと考えています。