通常型膵がん:内科治療を軸に据える場合+転移症例
■遠隔転移のある膵がんの治療について
遠隔転移、つまり、がんが血液やリンパの流れに乗って、肝臓や肺、骨、遠くのリンパ節など膵臓から離れた部位に飛び火してしまった場合は、手術で取り切ることは不可能になります。その場合は抗がん剤を用いた全身化学療法の適応になります。
抗がん剤は飲み薬や点滴の薬であり、血液の流れに乗って体の至る所にまで運ばれます。そのため全身にがんが広がってしまった場合でも、すみずみまで効果を発揮することが期待されます。
しかしながら、手術ががんを根こそぎ取り除く根治治療であることに対して、抗がん剤の治療の効果には限界があり、その目的は病気の進行を抑えて、生活の質を保ちながら寿命を延ばす延命治療が主な目的となります。
そのため、ある期間がんばったら終わりといった治療ではなく、副作用が問題にならず治療効果が得られている限りは続けていく治療となります。
通常型膵がん: とことん戦う内科治療
■抗がん剤治療の内容
これまではゲムシタビンという点滴の薬や、S-1という飲み薬のどちらか1つを用いた単剤の治療が行われてきました。
一方、近年では更なる治療効果の向上を目指して、複数の抗がん剤を組み合わせる多剤併用療法の開発が進んでいます。
現在、最も効果が高いとされる多剤併用療法には、ゲムシタビンにナブパクリタキセルと呼ばれる点滴薬を併用した治療法や、FOLFIRINOX療法と呼ばれる5-FUとレボホリナート、オキサリプラチン、イリノテカンという4つの薬を併用した強力な治療法があります。
これらの多剤併用療法は、従来の1つの抗がん剤で治療する単剤療法と比較して優れた治療効果が期待されますが、一方で副作用の発生率や重症度も高くなりますので、抗がん剤の治療に十分な経験のある先生のもとで治療を受ける必要があります。
また、患者さんがこれらの多剤併用療法に十分に耐えられる体の状態であるか、よく検討する必要があります。一般的には、年齢が若く、普通の生活を送ることができる健康状態であり、骨髄と呼ばれる血液の工場の働きが保たれており、黄疸や下痢などの症状がない患者さんがよい適応となります。
高齢であったり、ほかにリスクとなる問題がある場合には、無理をせずに体にとって負担の少ないゲムシタビンやS-1の単剤療法、もしくはゲムシタビンとエルロチニブという飲み薬の併用療法を行うことが勧められます。
■抗がん剤の副作用について
多くの抗がん剤に共通してみられる代表的な副作用に骨髄抑制があります。この骨髄抑制とは抗がん剤によって血液の工場である骨髄の働きが抑えられてしまうものです。
具体的には白血球の数が下がると免疫力が落ちるために感染症にかかりやすくなります。また赤血球の数が下がると貧血症状がでます。血小板の数が下がると血が止まりにくくなります。これらの変化は採血検査でしか分からないため、外来通院中も定期的に検査を受ける必要があります。
その他にも用いる抗がん剤の種類によって副作用の頻度は異なりますし、患者さんごとの症状の出かたも異なってきます。だるさや食欲不振・吐き気・下痢などの症状、口内炎や皮膚炎、手先のしびれなどといった特徴的なものがみられます。
また一部の抗がん剤ではアレルギー反応や薬剤性の肺炎など、頻度は低いものの起こると命の危険を伴う怖い副作用もあります。
副作用対策としては、吐き気やアレルギー反応に対しては、抗がん剤の投与前に予防薬を投与します。また副作用がみられた場合には症状に対する適切な治療を行いつつ、程度によっては抗がん剤の治療をお休みしたり量を減らして負担がない範囲で治療を続けていきます。
これらの副作用はすべての患者さんに起こる訳ではなく、またその程度も人によって様々です。治療法によって抗がん剤の投与される周期は異なりますが、通常数週間を1つのサイクルとしてこれを外来通院で繰り返していきます。点滴薬も外来で投与可能です。
治療経過の中で各副作用がでやすい時期はおおよそ決まっているため、それに合わせた診察を受ける必要があります。当院では、多剤併用療法を受ける患者さんの場合、治療開始の最初の1-2週間は入院して慎重に経過をみた後、問題がなければ外来で治療を続けていく方法をとっています。単剤療法であっても患者さんによっては入院した上で治療を開始する場合があります。
体に鞭を打ってまで苦しみながら抗がん剤の治療を受けるのではなく、副作用をうまくコントロールしながら適切な抗がん剤の治療を受けることによって、少しでもがんの進行を抑え体の負担を楽にし、安心して日々の生活を送れるようにすることが大切です。
筑波大学附属病院 消化器内科
病院講師 山本 祥之 先生