膵神経内分泌腫瘍

膵神経内分泌腫瘍とは?

膵神経内分泌腫瘍とは膵神経内分泌細胞に由来する腫瘍のことです。膵神経内分泌腫瘍は膵臓だけでなく、胃や腸の消化管、また肺や下垂体、甲状腺など体のいたるところに発症することが知られています。

膵神経内分泌腫瘍は発症頻度が低い珍しい腫瘍であり、膵臓にできた神経内分泌腫瘍の患者さんの数は10万人あたり2.2人と言われています。また、膵神経内分泌腫瘍のごく一部には遺伝性のものがあり、家族内に多く発症し副甲状腺や下垂体にも腫瘍を合併する場合があります。

膵神経内分泌腫瘍はその特徴から機能性、非機能性と大きく2つのタイプに分けられます。(表1)

 

膵神経内分泌腫瘍の分類

“機能性”と“非機能性”について

膵神経内分泌腫瘍はその名の通り、膵神経内分泌細胞が腫瘍化したものです。正常な体の膵神経内分泌細胞は一定の秩序のもと様々なホルモンを産生し体のバランスをとっています。しかしながら膵神経内分泌腫瘍の腫瘍細胞はいわば暴走した状態ですので、無秩序に大量のホルモンを産生し続けます。

  このホルモンの過剰産生により何らかの症状を来した場合の腫瘍を“機能性”膵神経内分泌腫瘍といいます。

一方、膵臓に膵神経内分泌腫瘍があっても症状を全く来さない場合を“非機能性”膵神経内分泌腫瘍といいます。膵神経内分泌腫瘍のうち機能性と非機能性の割合はほぼ同程度ですが、やや非機能性が多い傾向があります。

“機能性”と“非機能性”の症状と治療について

腫瘍の産生するホルモンによって症状は異なり、機能性膵神経内分泌腫瘍には複数の種類が存在します。代表的なものにインスリノーマと呼ばれる腫瘍があります。血糖を下げるホルモンであるインスリンを産生する細胞が異常に増殖した場合、インスリンが増えすぎて”低血糖”を起こします。

この他にも、インスリンとは逆に血糖を上げるホルモンであるグルカゴンを過剰産生するグルカゴノーマや消化液であるガストリンを過剰産生するガストリノーマなどがあり、それぞれ糖尿病や消化性潰瘍・下痢といった特徴的な症状があります。

このような症状を伴う機能性膵神経内分泌腫瘍はすぐに治療をする必要があります。具体的には、切除可能であれば手術の適応となります。手術ができない場合でも症状をコントロールする治療に加え、腫瘍の進行を抑える治療を行います。

一方、非機能性膵神経内分泌腫瘍は症状を来しません。この場合、いつ治療するかのタイミングは個々の患者さん毎に検討します。今日・明日を急ぐことでは無いけれど、何年も放って置いて良いという訳でもありません。なぜならば、放置した場合、肝臓や全身に飛び火、つまり転移することがあるからです。

転移してから病気をコントロールする事は非常に難しいので、現在では大きさに関係なく切除可能であれば早期に腫瘍を摘出する事が推奨されます。

“機能性”と“非機能性”以外の分類について

それは腫瘍細胞自体の悪性度による分類です。

実際には、膵臓にできた腫瘍を、超音波の機能のついた内視鏡を用いて胃や十二指腸の壁を通して針生検を行い、得られた腫瘍の組織を顕微鏡で観察します。肝臓に転移した場合は肝臓に針を刺して肝腫瘍生検を行い同様に顕微鏡で観察します。

  その結果、腫瘍細胞の分裂の程度、すなわち増殖する勢いを評価し、勢いの低いものから高い順にグレード1、2、3と3つに分類(表2)します。

このうち、グレード1、2はいわゆる足の遅い腫瘍であるため落ち着いて治療計画をたてることができるのですが、グレード3は膵神経内分泌がんと呼ばれ非常に悪性度が高いものです。そのため、グレード1、2とは扱いが大きく異なり、非機能性であっても早急な治療が必要となります。

このように、膵神経内分泌腫瘍はその大きさや転移の有無だけでなく、症状の有無による分類や腫瘍細胞の増殖の勢いの程度による分類を考慮して治療戦略を練っていく必要があります。急がずに経過をみていってよいケースから、急いで手術などの治療を行ったほうがよいケースまで患者さんによって様々であるため、適切な検査をうけて主治医の先生とよく話し合って治療方針を決めていくことになります。

また遺伝性の膵神経内分泌腫瘍の場合、当院では遺伝診療グループの専門外来があり相談やカウンセリングを行うとともに、血縁者の発症前診断を行うことも可能です。

 
筑波大学附属病院 消化器内科
病院講師 山本 祥之 先生