膵臓がんとは
それは、下記の3つのうち、どれだろうか?という事です。膵腫瘍の中には性質、ふるまいの全く異なる3種類の腫瘍が含まれます。我々はそのいずれかによって、対応が異なり、お勧めする治療法も全く異なります。
今回、膵臓がんの性質や治療法についてお伝えさせていただきますが、まず最初に、がんは一人ひとり違うという事をしっかりとご理解いただきたいと思います。
多くの方がこの3つを区別せずに極端にがっかりしたり、逆にピント外れに安心したりすることがとても多いものです。膵臓の腫瘍の治療を考える第一歩は、この3つのどれかを知ることです。
膵臓の役割
膵臓の役割は、大きく分けて2つ
腫瘍の話をする前に、膵臓の役割について簡単に知っておいていただきたいと思います。膵臓は大きく分けて2つの役割を担っています。
1つ目の役割は食べ物を吸収するための消化酵素を作ることです。胃でおおまかに液状化された食物はそのままでは小腸で吸収することができないので、さらに分解する必要があります。炭水化物、脂肪、タンパク質それぞれを分解する酵素を作るのが膵臓の役割で、これらを含んだ膵液を腸のなかに分泌します。
もう一つ膵臓には血液中の糖分、血糖値を一定に保つ血糖コントロールという機能があり、これを担うインシュリンを作るのも膵臓の大きな役割です。
膵臓のなかにはこの消化液を作る機能と、血糖を調節する機能の2つを担うための細胞が混在しています。消化液である膵液そのものを作るのは腺房細胞の役割、それを十二指腸まで運ぶ道が膵管、そして、血糖調節を担うホルモンを作るのは“ランゲルハンス島”と呼ばれる内分泌細胞です。
不思議なことに、膵臓の90%を占める腺房細胞から腫瘍ができることはあまり多くありません。
膵管から出来る腫瘍には2つあります。一つはネバネバの粘液が中に詰まっている嚢胞性膵腫瘍、そしてもう一つが一般的に膵臓がんと呼ばれる膵管がんです。
もう一つは、腫瘍は内分泌細胞から出来る内分泌腫瘍と呼ばれるものです。
細かい例外はいくつかありますが、膵臓に出来る大部分の腫瘍はこの3種類のうちどれかで、今回はこの3つに絞って説明させていただきます。
膵臓に出来る腫瘍は大きく分けて3種類
3つの腫瘍のうち、粘液産生嚢胞腫瘍と膵神経内分泌腫瘍はこの根を張らないタイプの腫瘍で、スコップで掘り起こして取る様な事が比較的容易にできます。
その反面、除草剤を撒いて枯らす様な事はかえって難しいので、抗癌剤による治療はあまり考えられません。手術切除が出来るなら、すなわち、体調や年齢、他に病気が無いなど、そういった条件が許すのなら、まず手術で取ることを考えるべきです。問題は、いつやるかということです。
粘液産生嚢胞腫瘍について
粘液産生嚢胞腫瘍は放っておくと通常型膵がんにジャンプすることがあります。膵がんの予防として見つかれば3mmでも5mmでもすぐ手術していた時代がありますが、最近になって、多くの患者さんの経験が積み重なって、どのような人は様子を見て良いのか、どうなったら手術をした方が良いのか、という目安がかなり分かってきました。粘液産生嚢胞腫瘍の患者さんは、初めのうちは経過観察して様子を見て、膵がんにジャンプする気配が出てくればそのタイミングで手術切除する、という方針が基本になります。
膵神経内分泌腫瘍について
膵神経内分泌腫瘍の患者さんも同様で、3mmとか5mmといったすごく小さい場合、経過観察して様子を見ても良いと思います。そして、徐々に大きくなってくるようであれば、具体的には1㎝を超えてくるようであればそろそろ手術を考えなくてなりません。
もう一点、膵神経内分泌腫瘍は多発することが少なくありません。ですから、1個の腫瘍を取ってお終いかというと、そうではなく、膵臓の他の部分に2個め、3個目の腫瘍が出てくる事があります。その事も頭に入れて治療戦略を考えなくてはなりません。分泌されたホルモンにより症状が出る場合は大きさに関わらず迷わず手術で取り除くことをお勧めします。
通常型膵がんについて
最後に通常型膵がんですが、これは雑草で言えば根を張るタイプの代表です。見つかればすぐに治療開始ですが、現代医学が持ち合わせる武器を総動員して戦うことになります。取れるものなら手術をして取るのが基本なのですが、先ほどの2つの腫瘍と違って、手術で取り出しても、根が残ってしまう事が多いのです。ですので、手術の前や、後に抗癌剤や放射線療法を追加して、叩けるだけ叩くというのが基本スタイルです。
膵がんは病気の進み具合によって治療戦略が異なりますので、その点については後で詳しくお話しします。
教授 小田 竜也 先生