マウスES細胞から胃細胞を作成 ~創薬研究に朗報~

2015/09/24

研究成果のポイント

1. マウスES細胞を分化させることで、試験管内にて胃の組織細胞を作製することに成功しました。
2. 作製した胃組織は消化酵素やヒスタミン刺激によって胃酸を分泌しており、試験管内でも胃の機能の一部が再現されていることが確認できました。
3. 薬の安全性試験や病態モデル作製等の創薬基盤研究への応用が期待できます。

研究の概要

筑波大学生命環境系の王碧昭教授、大学院生で日本学術振興会特別研究員の野口隆明および産業技術総合研究所創薬基盤研究部門幹細胞工学研究グループの栗崎晃上席主任研究員は、マウスES細胞を用いて、試験管内での培養のみで立体的かつ胃の機能を一部担う胃組織の作製方法を開発しました。

本研究では、胎生期の胃の元になる部分(ほぼ胃の原基に相当)に着目し、胃の原基で発現する遺伝子Barx1,Sox2を指標として、ES細胞から効率良く胃の原基構造を分化誘導できる培養条件を同定しました。さらに、この胃の原基構造を長期にわたって3次元培養することで、マウス新生児に見られる胃線に似た構造を持つ、立体的な胃組織の作製に成功しました(図1)。

作製した胃組織内の胃線では、消化酵素を溜め込んだ主細胞が確認でき、構造的に見ても新生児の主細胞に非常に似ていることがわかりました(図2)。さらに、この胃組織は、培養液中に消化酵素であるPepsinogenを分泌し、ヒスタミン刺激に応答して酸を分泌し、培養液のpHを下げる能力を持つこともわかりました。以上から、ES細胞から作製した胃組織は、胃の機能の一部である消化酵素と胃酸の分泌も行っていることが示唆されました。今後は、ヒト多能性幹細胞を用いたヒト胃組織を作製する方法の開発を目指します。

この成果は2015年7月20日に英科学誌Nature Cell Biology誌のオンライン版に”Generation of stomach tissue from mouse embryonic stem cells.”の題名で掲載されました (doi:10.1038/ncb2300)。また、同年7月31日の同誌News and Viewsオンライン版の研究ハイライト欄で、”Building stomach in a dish.”というタイトル記事として紹介されました (doi:10.1038/ncb2311)。

 

 

図 ES細胞から作製した立体的な胃組織(図1)、およびES細胞から作製した主細胞(消化酵素を分泌)とマウス新生児の主細胞との比較(図2)。(掲載論文より引用)

※本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金の助成を得て実施されました。

問い合わせ先

王 碧昭(おう へきしょう) 筑波大学生命環境系 教授
野口 隆明(のぐち たかあき) 筑波大学大学院生命環境研究科博士課程 日本学術振興会特別研究員