わが国初の慢性E型肝炎の症例を確認 ~肝移植患者に対する全国スクリーニング調査を実施~

2015/10/28

研究成果のポイント

1. アジア圏で初となる移植後患者でのE型肝炎感染の実態調査を、全国規模で実施しました。

2. 調査の結果、肝移植後患者の慢性E型肝炎感染例を国内で初めて確認しました。

3. その感染源は輸血製剤であることが判明しました。

研究の概要

近年、欧州諸国を中心に臓器移植患者など免疫抑制下でのE型肝炎ウイルス(HEV)の慢性感染が相次いで報告されていますが、日本を始めとするアジア諸国ではこれまで大規模な調査は行われていませんでした。わが国ではE型肝炎感染の報告例は増加傾向にあり、少しずつ認知が高まりつつありますが、臓器移植後患者におけるHEV感染の潜在が懸念されます。

本共同研究チームは、全国17施設(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、慶應義塾大学、順天堂大学、信州大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、岡山大学、広島大学、徳島大学、愛媛大学、九州大学、長崎大学、熊本大学)の肝移植後患者を対象に、抗HEV抗体、HEV RNA測定を行う横断研究を実施しました。

その結果、HEV RNAを測定した1,651例中2例が陽性となり、わが国で初めて慢性E型肝炎が明らかとなりました。さらに追跡調査の結果、HEVの感染源はいずれの症例も周術期に使用された輸血製剤であることが判明しました。

本研究の成果は、Cell誌とLancet誌が共同でサポートする新規オープンアクセス誌「EBioMedicine」に2015年9月21日付(in Press)で公開されました。(DOI: 10.1016/j.ebiom.2015.09.030 )

*E型肝炎ウイルス(HEV)

E型肝炎は主に経口経路で伝播するウイルス肝炎で、日本では4類感染症(動物や飲食物を介してヒトに感染する)に分類されます。これまでは公衆衛生環境の整っていない発展途上国での水系感染や、これら地域からの輸入肝炎が主でした。しかし、ブタやイノシシなどを保有種とした人獣共通感染を起こすウイルスタイプが存在し、先進国でも土着型E型肝炎の原因となっています。HEVに感染した場合、多くは不顕性感染あるいは特別な治療を要さず自然軽快しますが、元々肝疾患を持つ患者や妊婦では劇症化率や致死率が高くなります。慢性化はしないと考えられてきましたが、近年、免疫抑制下での慢性肝炎と肝硬変の報告が散見されます。

今後の展開

肝移植だけでなく、他の移植手術においてもHEV感染が存在する可能性があります。また、わが国ではこれまでに10例以上の輸血製剤を感染源としたHEV感染が報告されています。受血者には、臓器移植患者以外にも抗がん剤治療中など多くの免疫能が低下した患者が含まれる可能性があり、輸血後の追跡調査や献血スクリーニング拡大の必要性が示唆される結果でした。現在、対象を腎移植・心移植患者に拡大し調査を継続中です。

問い合わせ先

大城 幸雄 (おおしろ ゆきお)

筑波大学 医学医療系 消化器外科・臓器移植外科 講師