筑波大学附属病院の陽子線医学利用研究センターでは、体への負担が少ない「陽子線」によるがんの治療を行っている。
がんの治療には主にエックス線が利用されるが、エックス線は正常な臓器も傷つけてしまう特性があり、がんの部位によっては副作用が強く出てしまうケースもあった。陽子線治療はこれらを最小限にすることができ、患者の生活の質を保ちながら治療できるため、がん患者のニーズに合う治療法として注目されている。
陽子線治療は、水素の原子核である陽子を「加速器」で一気に光速の約60%まで加速した陽子線を用いて治療を行う。
筑波大では開学当初から陽子線治療に着目し、1983年には体の深部にあるがんに対する臨床研究を世界に先駆け開始。国内で最も長い歴史を持つ陽子線治療の拠点として、これまでに4000件を超える治療をしてきた。
陽子線治療の最大の利点は、がんの病巣をピンポイントで攻撃できることだ。体に照射された陽子線は狙った深さで止まるため、がんの病巣以外の正常な組織をほとんど傷つけずに治療できる。
体への負担が少なく、通院での治療も可能だ。
だが、陽子線治療を行うまでの過程はかなり複雑だ。
がんの病巣だけを狙うため、照射の幅や奥行きを決定するための専用の器具を作成する。これらの器具は、患者の体や病巣の位置を詳しく調べ、コンピューターを使い一人ひとり専用のものを作
る必要がある。また、陽子線が止まる深さを決めるためのエネルギー量の調整にも、物理学を応用した緻密な計算が不可欠だ。
精確な治療を実現するため、陽子線医学利用研究センターでは、医師だけでなく放射線や加速器についての知識が豊富な医学物理学や、放射線の生物学的な影響を考える放射線生物学の教員も治
療に参加してきた。その一人、同センター医学物理学グループの榮(さかえ)武二教授(医学医療系)は「さまざまな分野の研究者が連携し患者にとって最適な治療法を考え、実行しているのがセンターの最大の特徴」と語る。
こうした研究の質の高さが評価され、筑波大の陽子線治療は海外からも注目を集め、これまで国内外から1万人以上の視察者を受け入れてきた。坪井康次センター長(医学医療系・教授)は更
に研究を進め、治療の精度を向上させるために、医学以外に生物学や物理学など、さまざまな分野の学生や研究者に参加してほしい」と話している。(井口彩=社会学類3年)