やせなければならない理由
質問にあるように、肥満とかメタポ リツクシンドローム(以下メタボ)というのは、自覚症状がなく、病気でもありません。健康と病気のはざまの状態といえます。なぜ問題視されるかというと、放置しておくと、脳卒中で亡くなるとか、心筋梗塞で倒れて後遺症が残る、糖尿病で失明する、腎不全に陥るといった、深刻な病気になる危険が高いからです。
肥満から病気まではドミノ式になっています。生活習慣が悪くなることによって、肥満が引き起こされ、高血圧や脂質異常、高血糖が起きてきます。この状態をメタボといいます 。自覚症状のないまま着々と動脈硬化が進行し、いつかドミノが倒れて取り返しのつかない病気になるというわけです。ですから、どこかでこの流れを食い止めなければなりません。
そのタイミングが、健康診断で、肥満やメタボと診断された時ということになります。そこで気付いて生活習慣を改めれば、ドミノは倒れずにすみます。
肥満とメタボ
日本肥満学会は、BMIが25以上を肥満と定義しています( B M I の計算式・・・ 体重[ kg÷身長[ m]÷身長[ m])。
一方、メタボリツクシンドロームの背景には、内臓脂肪症候群があります。肥満の中でも、特に、内臓脂肪型肥満がいろいろな病気にかかりやすいことから、近年、着目されています。
メタボと診断されるのは 、腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上( C T スキャンによる内臓脂肪面積100㎤以上)という基準に加え、脂質異常・高血圧・高血糖の3項目から2つ以上該当する場合※です。
体脂肪率は目安に
太りすぎの判断材料としては、他に体脂肪率もありますが、体脂肪率を正 確に測るというのは、非常に難しいのです 。現在、各計測機器メーカーに よって測定方法が異なり、目安にはなりますが、基準にはなりません。
太るメカニズム
人間の体というのは、エネルギーを使った分だけ補充しようとします。そのために満腹中枢があるので、本来、自分の体の声に耳を傾けていれば、太ることはないはずです。太ったという方も、1年で1キロくらいずつ、徐々に増えてきたという方が多いのではないでしょうか。 そういう方は、ほんの少し、使ったエネル ギーより食べ過ぎてしまったということです。
例えば、一日三食、適度な食事をした人が、風呂上がりにアイスクリームを食べることが習慣となったとします。 そのアイスクリーム 1 個分、2 2 0 カ ロリーくらいのエネルギーは、行き場がないので、朝までに30g ほどの脂肪となって、体内に蓄 積されます。それを毎日続ければ、1 カ月で 1キロちかく増えるという計算になりますね。それが 太るという状況 です。
1日マイナス5 0 0カロリーで、1 カ月で 2 キロ減量
人間の 1 キロの脂 肪は、だ い たい7 0 0 0 ~ 7 5 0 0 カロリーです。例えば、1 カ月で 2 キロ減らしたいとすると、 1 万 5 0 0 0 カロリーを 3 0 日で減らすわけですから、1 日あたり 5 0 0 カロ リーを減らせばいいということになり ます。
今食べている量と動いている量で、現在の体重を維持しているとして、そこから5 0 0 カロリー分、運動して消費するか、食事の量を減らして、5 0 0 カロリー分エネルギー不足の状態を毎日作るようにします。
食事で 5 0 0カロリー減らすには
メタボが進行した方に減量指導をする場合には、栄養の働きで分けられた 4 つのグループをバランスよく取る「四群 点数法」を理解していただき、カロリーガイドブックで確認しながら食事記録をつけて、目標とする摂取カロリーの食事ができるようにします。
しかし、そこまでするのは、なかなか大変です。食事で 5 0 0 カロリー減らすというととをわかりやすく説明してみ ましょう。マクドナルドで、ビックマック とフライドポテトとコーラを注文していたとします。これで 1 1 3 9 カロリーです。ダブルチーズバーガーとサラダとコー ヒー(ミルク・砂糖入り)に変えると、 6 2 0 カロリー。この1食だけで、5 0 0 カロリー減らすことができました。
カロリーを大幅カットできたのは、サ イドメニューをフライトポテトからサラダに替えたからです。油はカロリーが高いので、できるだけ控え、野菜の量を増やすことを心掛けましょう。野菜を焼いたり、煮たり、蒸したり、汁物に入れたりしてたっぷり食べ、あとは少しのご飯と肉や魚。これで、自分はしっかり食べた気になって、バランスがよく、カロリーの低い食事が取れます。
ただし、本能に任せていたら、人間の体は、収支が釣り合うようにエネルギーを要求しますから、ダイエットは意識的にやらなければ成功しません。体にとって エネルギー不足の状態なので、お腹が空いて当たり前です。お腹が空いて我慢した時に、今溜まっている脂肪を分解して糖に変えて、エネルギーにするわけです。
朝・昼しっかり食べ、夜は控えめに
朝・昼は、食べた後に活動して、摂ったエネルギーを消費しますが、夜は寝るだけなので、脂肪に変える時聞をたっぷり与えることになります。しかも、寝ている間に成長ホルモンが出ますから、脂肪がつきやすい。寝る直前に食べることは、特に危険です。朝・昼しっかり食べて、夜は控えめにする。寝る前2時間くらいはなるべく食べないようにしましょう。
運動で5 0 0カロリー消費するには
一方で、運動で 5 0 0 カロリー消費 するには、どのくらいか。だいたい10分ウォーキングして50カロリー消費するので、毎日 1 0 0 分歩けば 5 0 0 カロ リー消費して、食事の量を変えず 1ヶ月で2キロ ダウンできます。
しかし、毎日2時間近く歩く、もしくは、それ相当の運動するというのは、負担が大きいので、食事量を減らすことと運動で消費することを組み合わせて取り組むことがお勧めです。
今までの生活より毎日10分多く歩き、50カロリー消費するという試みでも効果があります。食べる量を増やさなければ、 それだけで、10ヵ月で 2キロ 減らすことができるわけですから。
有酸素運動と無酸葉運動
ウォーキング以外の運動を選ぶ場合、無酸素運動より有酸素運動の方がいいといった話がありますが、エネルギーを消費するのは一緒です。アスリートのレベルでなく、普通の健康運動でやるレベ ルであれば、そうしたことを気にせず、やれるもの、やって楽しいもの、続けられそうなものといった観点で種目を選んでかまいません。
また、腹囲を減らすために腹筋運動を するという話も聞きますが、脂肪が燃焼する時は、体の中で循環して燃焼してい きますから、腹筋すれば腹囲が減るというものではありません。
やせ過ぎもリスクファクター
メタボの問題を取り上げてきましたが、やせ過ぎもまたリスクファクターです。日本の憂うべき状祝かもしれませんが、若い女性の痩身志向が強まり、20~30代女性の やせている人の割合が増加しています。
死亡率のデータは 、J カ ーブを描き、B M I が 低ければ低い程、高ければ高い程死亡率が高く なっています。やせ過ぎの基準は B M I18.5.この数値は下回らないようにしましょう 。
*【脂質異常】中性脂肪150mg/dl以上 HDLコレステロール40mg/dl未満
【高血圧】収縮期血圧 130mmHg以上 拡張期血圧85mmHg以上
【高血糖】空腹時血糖110mg/dl以上
中田由夫准教授(医学医療系)