今年の春は特にマスクをしている人が目立った。年々多くなる花粉の飛散量で、花粉症患者が増加したからだ。花粉症だけでなく、ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患にかかる
人も増加しており、現在世界では3分の1の人が何らかのアレルギー疾患にかかっているという。このアレルギー疾患を根本的に克服する研究を渋谷彰教授(医学医療系)が行っている。
アレルギーはどうして起きるのか。まず、花粉などのアレルギーの原因が体内に入ると、その侵入を知らせる物質が体内で働く。その物質が「肥満細胞」の表面にある一部の受容体【 】と結合すると肥満細胞が活性化し、ヒスタミンなどの化学物質を含む微小な粒を放出。それが血管や皮膚などに作用することでアレルギーが起こる。
だが渋谷教授の研究で、肥満細胞の表面にはアレルギーを抑える受容体もあることが分かった。特定の物質と結びついて肥満細胞の活性化を抑え、結果的にヒスタミンなどの放出を妨げるも
ので、渋谷教授はこのような受容体をアラジン1と命名。2010年に発表した。同教授がアラジン1を持たないマウスを作成し、アレルギーの原因を与えると普段よりひどい反応が出たという。
もし、アラジン1の働きを強力にし、肥満細胞全体の活性化を抑えられるような薬ができれば、アレルギーの原因が体内に入っても、アレルギーを起こす化学物質が肥満細胞から放出されない。
この場合、この薬はアレルギーの特効薬となる可能性がある。現在のアレルギー治療は肥満細胞から放出される化学物質一つひとつに対して薬を使う「対症療法」だ。このため症状ごとに薬を飲み分ける必要があるのが難点だった。
だが開発には障壁も多い。アラジン1を効果的に働かせるためには、アラジン1に強く結合して肥満細胞の活性化を抑制するきっかけを作る物質が必要になる。肥満細胞が活性化しないと、そもそも肥満細胞の動きをブロックするアラジン1が働き出さないからだ。現在は製薬会社と共同で新薬を開発している。
渋谷教授はもともと内科医。だが、医療の現場で今の医学では治すことのできない多くの病気を見てきた。「根本的な研究をしなければ医学の進歩はない」。そう考え、研究の世界へ足を踏み入れた。
今後は薬の開発と共に、開発した薬を実用化する臨床研究も行っていく方針だ。「臨床研究は倫理的に難しい側面がある。少しずつステップを踏んで進めて行きたい」と渋谷教授は語る。
ちなみに「アラジン1」の名前の由来を渋谷教授はこう語る。「全てのアレルギーを抑えるよう願いを込め、アレルギーと『アラジンと魔法のランプ』をかけた」。「魔法」のようにどんなアレルギーも抑え、アレルギーに苦しむ人がいなくなる……。その未来も遠くはないかもしれない。(中島佳奈=人文学類3年)
◆受容体=細胞の表面や内部にあり、特定の物質と結合することで細胞の機能に影響を与える器
アレルギーを抑える「魔法」製薬会社と特効薬を開発中
代表者 : 渋谷 彰