2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震について、プレート(岩板)境界にある滑りやすい粘土層が地震の規模を拡大させていたことを筑波大学の氏家恒太郎准教授(生環系)らの研究グループが突き止めた。1万9000人以上の死者行方不明者を出した大地震のメカニズムは、これまで不明な点が多かったが、同准教授らの研究結果はその解明に貢献するものとして注目されている。この研究成果は昨年12月6日、米国の科学雑誌「Sc ience 」に掲載された。
「プレート境界地震」は、海側のプレートの沈み込みに伴って陸側のプレートが引きずりこまれることでたまったひずみが限界に達し、陸側のプレートが元に戻ろうとする際に起こる。従来、地震で大きくずれるのは、プレート境界深部であると考えられてきた。
一方でプレート境界浅部は柔らかい堆積物で構成されているため、ひずみをためこみにくいと考えられていた。だが、今回の大地震ではプレート境界の深部だけでなく浅部でも約50㍍に渡る大規模な滑りが起こり、巨大津波が発生したことが観測されていた。
氏家准教授らの研究グループは、このメカニズムを解明するため、世界最大級の掘削探査船「ちきゅう」= =を用いて、一昨年4月から2カ月に渡って宮城県沖約220㌔の日本海溝付近の海底を掘削し、プレート境界浅部(水深約6900㍍、海底面下約820㍍)から断層試料を採取することに成功した。
試料を分析した結果、大地震で大規模な滑りが起きたプレート境界浅部の断層にはスメクタイトと呼ばれる水を通しにくく、滑りやすい粘土鉱物が約8割も含まれていることが分かった。
氏家准教授らは更に、プレート境界浅部の試料を用いて地震時の滑りを再現する実験を行った。その結果、スメクタイト層中に含まれる水分が地震時の高速滑りによる摩擦熱によって膨張することで水圧が上昇。断層を上から抑えつける力が減少することで、滑りやすくさせたことも明らかにした。同研究グループは、これら2つの要因でプレート境界浅部が大きく滑り、巨大津波が起こったと結論づけた。
氏家准教授らは将来的に大地震が予想されている南海トラフなどでも、地震性滑りメカニズムを調べていく予定だという。(平嶋健人 社会学類2年)
地球深部探査船ちきゅう=独立行政法人海洋研究開発機構が運用する掘削探査船。世界最高の掘削能力を持ち、深い海底下の試料を採取できる。全長210㍍で、最大搭乗人数200人。2007年から運用開始。