ホルモンで変わる行動や感情 カウンセリングへの応用に期待

代表者 : 小川 園子  

 怒ったり、不安になったり、私たちは人との関わりの中でさまざまな感情を抱き、行動しているが、これまでの研究で特定のホルモンの働きを調節することで、不安感が軽減するなど、感情の変化が起こるかもしれないことが分かりつつある。そんなホルモンと行動の関連性についてマウスを使って研究を続けるのが、小川園子教授(人間系)だ。
 ホルモンは生物の体内のさまざまな部位で分泌され、体の維持に重要な役割を果たしている。例えば、成長ホルモンは脳下垂体前葉から分泌され、骨の生育や筋肉の成長に働く。だがこれまでのホルモン研究ではこれら生物の身体的な変化だけが注目されており、ホルモンによる行動や感情の変化には注目されていなかった。そこで、小川教授はマウスを使って、生物が異常な行動を見せる時ホルモンがどのように機能しているのか研究を始めた。
 小川教授は普段はおとなしいメスのマウスが、妊娠・出産すると激しい攻撃行動を見せることに注目。マウスのホルモン分泌量を測定しながら行動を観察した結果、プロゲステロンと呼ばれるホルモンによって攻撃行動が引き起こされている可能性が明らかになった。
 ホルモンの影響で、動物の行動が変わることを考えれば、他人とうまく話せなかったり、初対面の人に極度の不安を感じてしまう原因も、ホルモンの働きによって説明できる可能性がある。小川教授はこのように人間関係の構築や維持にもホルモンのバランスが影響しているのでは、とも考えている。
 ホルモン研究は、応用可能性も高い。例えば現在、虐待やいじめ、育児放棄の改善にはカウンセリング治療が行われているが、その原因がホルモンバランスの乱れであれば、ホルモンの働きを調節する治療が期待できる。
 小川教授は「人は新生児期、思春期、成熟期、老年期とさまざまな段階でホルモンによる影響を受けている。マウスの実験を通してホルモンの働きを解析し、それによって起こる人の行動や感情の変化について調査していきたい」と今後の目標を語った。(油布知夏=人文学類2年)