新井達郎教授(数物系)らの研究グループは、特定の細胞内に入ると緑色に発光する特殊な蛍光物質「ツクバグリーン」を開発した。
医学や生物学では、特定の細胞を蛍光物質で「マーキング」し、観察しやすくする。2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩氏らが発見した緑色蛍光タンパク質(GFP)もマーキング
に使われる蛍光物質の一つで、さまざまな研究で用いられている。蛍光物質を用いるとがん細胞などとほかの細胞を区別できる可能性があり、現在は実用化に向けた研究も活発に進められている。
ツクバグリーンは特定の細胞に付着、内部に入り込むことで発光するようになる。ほかの蛍光物質と違い、遺伝子操作などの手間がかからないため、効率的に研究を進められる可能性がある。
画期的な蛍光物質になりえるものだが、実は偶然の産物なのだという。医学などの研究者とほかの研究をしていた過程で、ツクバグリーンのもととなる物質が偶然生み出された。「新しい発想
で研究し、偶然見つけた現象を大事に育てていくことにより、思いもよらない大きな成果が生まれることがあるのも化学の醍醐味」(同教授)。
ツクバグリーンは現在も新井教授ら化学の研究者と、医学の研究者との共同研究が続けられている。化学の研究者がツクバグリーンのもととなる物質を合成し、医学の研究者が、その性質を分
析。それをもとに化学の研究者が問題点を改良する……。ツクバグリーンの開発は化学と医学のどちらが欠けても成し得ないものだ。
新井教授は「共同研究は、異なる学問分野の研究者が、お互いの知識や技術を結集して考えることで成功する。今後も実用化に向けて共同研究を進めたい」とした上で、「緑色だけでなく、自在
に発光色を選べるように一連の蛍光物質を作り出したい」と話した。
がん研究など、さまざまな研究の現場で「ツクバ」の名を冠した蛍光物質が活躍する日も近いかもしれない。 (関根岳=社会学類3年、写真も)