日本人の死因で最多の「がん」。治療にはがん細胞を死滅させる抗がん剤を用いるが、がん細胞以外にも全身に薬が作用するため、脱毛や吐き気といった強い副作用が伴う。それらの副作用を減らすため、抗がん剤と併用し、がん細胞以外の細胞へ抗がん剤を効きにくくする「抗酸化型ナノ粒子薬」の研究が、長崎幸夫教授(数物系)のもとで進んでいる。
長崎教授は、体内に大量に存在し、他の体内物質を酸化させる活性酸素に注目。活性酸素は細胞の活動維持に必要な物質だが、がんの場合、患部の組織を傷つける。そのため、がん細胞の増殖を促進すると同時に、がん細胞の表面に結集し、抗がん剤を患部に入れにくくする性質がある。
これまでもがんの治療には、抗がん剤のほか、活性酸素の働きを防ぐ抗酸化薬の併用が効果的とされてきた。だが従来の抗酸化薬は全身の細胞に作用してしまうため、体が必要な正常な酸化まで抑えてしまう。またその分、がん細胞の表面に結集する活性酸素を排除する効能が小さくなり、従来の抗酸化薬の服用が病気の改善に必ずしも効果的でないことも、明らかになっていた。
そこで長崎教授は、抗酸化薬の分子の大きさを調整することで、がんの患部にのみ取り込まれやすい新しい抗酸化薬を開発した。
この薬を使うと、がん患部の活性酸素が効果的に取り除かれるため、併用の抗がん剤も患部に効果的に吸収され、効きやすくなることが予想される。抗がん剤が全身の他の部分へ作用する量や、抗がん剤の使用量自体も減り、副作用を軽減することも期待できる。
この技術はがん治療だけでなく、さまざまな病の治療への応用も期待されている。例えば認知症の一種であるアルツハイマー病は根本的な治療法がないが、原因は脳内の活性酸素の増加だと分かっている。記憶力が低下したマウスに長崎教授の新薬を投与すると、4週間後に正常なマウスと同程度まで記憶力が回復したという。また、これを基盤とした材料では手術後に9割以上の確率で起きる癒着症状の改善にも役立つという。
実用化には国の認可が必要だが、長崎教授は「研究が広がることによって、新たな市場の開拓にもつながる。今後は製薬会社などと連携し、研究と実用化を進めていく」と話す。この筑波大発の技術を用いた薬がさまざまな病気の治療に新たな光を照らす日も、そう遠くない。(岡田優太=社会学類2年)
抗がん剤副作用軽減へ薬開発 実用化目指す(2016.04)
代表者 : 長崎 幸夫