#058:みんなが活き活きと暮らせるまちをつくろう(2016.05)

代表者 : 藤井 さやか  

システム情報系 藤井 さやか(ふじい さやか) 准教授

 まちづくり。最近よく聞く言葉ですが、実際には目的や方法はさまざまで、地域の再開発や産業の活性化から住民の自立的な活動まで、幅広い取り組みがあります。藤井さんが専門にしているのは、建物や植栽などの地域資源に着目したまちづくりです。新しい開発だけではなく、古くなった建物に新たな役割を与えるような用途の検討やそのためのリノベーション(改修)についても研究しています。基礎研究としては、海外も含め多くの地域へ出かけてまちづくりの事例を調査する比較研究があります。実践研究としては、自治体から相談を受けることが多く、その地域の特徴や課題を調べた上で、まちづくりの計画や制度を一緒につくっていく活動をしています。

 広場などの模型をつくって人の流れや景観を検討するのも有効な作業です。

 本来、地域の再生事業を担うのは自治体や土地・建物の所有者です。しかし、建築物や土地の利用形態が変わると、周辺の環境にも大きな影響が生じます。そのため、そこに暮らす人々を無視して進めるわけにはいきません。まちづくりで重要なのは住民参加のプロセスです。いろいろな立場や考えをもつ住民の意見を尊重し、行政や産業界、地元で活動する組織や、地域の外側にいる応援者など、さまざまな関係者のアイデアも取り入れつつ、10年、20年先の暮らし方も考慮して、その地域にふさわしい姿を描く必要があります。そのためには、客観的な視点で全体をまとめていく専門家(ファシリテーター)の関与が不可欠です。藤井さんは自治体や地域の依頼に応じてその役割も担います。


 

 たとえば常総市。2015年に水害で大きな被害を受けました。筑波大学では、複数の研究グループがその復興を支援しています。藤井さんの所属するシステム情報系社会工学域では、復興計画の策定を全面的に支援しました。避難生活を続ける人も多く、とにかく早く自宅に戻りたいという願いや、これを機会に住環境の整備と防災対策に力を入れてほしいといった期待、経済的な支援を求める声など、さまざまな要求が挙がりました。けれども、それらを同時に満たすことはできません。復興ビジョン検討委員会を3回、復興計画策定委員会を3回開催する中で、現状に関する情報と問題点を共有しながら、優先事項を話し合い、少しずつ合意を形成していきました。そうやってまとめられた復興計画案は、パブリックコメントを経て正式に確定されました。


 このような話し合いは、まちづくりの鍵となるプロセスですが、市民が参加するワークショップで実際には提案が実現に至らないこともあります。市民のアイデアを行政に反映させる法的な仕組みが弱いためです。それでも、昔ながらの商店街の再生や、子育て中の母親たちの支援など、コミュニティの活性化につなげている事例はたくさんあります。こういった活動を通して、地域の人々が互いの得意分野を生かし、やりがいをもって社会参加できる場が生まれます。まちづくりには、人々を元気づけ、楽しく暮らせるための仕掛けづくりという側面もあるのです。

 藤井さんは子供の頃に、筑波研究学園都市に越してきました。最初は、自分の故郷だという感じがしなかったそうですが、人工的に作られた新しい地区と古くからの農地とが共存する、つくばの多様な景観や環境に徐々に興味が湧いたそうです。自分が子育てをするようになって、つくばはとても住みやすいまちだと実感しています。今では胸を張ってつくば出身と言います。ただ、計画的につくられたはずのつくばも、40年以上が経過し、公務員宿舎の廃止やコミュニティの分散など、メンテナンスの必要があります。つくばの変化を見続けてきた藤井さんは今、自治体や地域の人々とともに、これからのつくばのまちの在り方を模索しています。

 日本では1960年代、70年代に、大量の住宅が全国一斉に整備されました。しかし、当時は最先端だった間取りや設備もしだいに不便なものとなり、住民構成やコミュニティの規模の変化など、時代の流れに伴ってさまざまな課題が生じてきました。地域ごとに異なるこれらの課題を解決しようという取り組みが、まちづくりの始まりでした。空間を変えることと、そこで地域の人が一緒になってまちを育てる新たなプログラムを構築する。その組み合わせによって地域の暮らしを豊かにしたいと、藤井さんは語ります。ゴールがなく、成果も見えにくい研究分野ですが、まちづくりの力は確実に広がっています。

住民が参加したワークショップの光景。

 (文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)

(2016.5.16更新)