一酸化窒素を解毒するペプチドとカビのバイオテクノロジー(科研費NEWS_2013_vol.4)

代表者 : 高谷 直樹  

一酸化窒素を解毒するペプチドとカビのバイオテクノロジー(科研費NEWS_2013_vol.4)

筑波大学 生命環境系 教授 高谷 直樹

研究の背景

 カビは日本人の生活に深く関わる生き物です。カビに嫌な イメージを抱く人もいるかもしれませんが、和食に欠かせない 醤油や味噌、日本酒の醸造・発酵に欠かせない麹菌もカビ の一種です。また、一酸化窒素(NO)は生体分子との反応 性が高く、様々な生命現象に不可欠なシグナル分子として 知られています。幅広い生物の細胞がNOを解毒するメカ ニズムを持っていますが、カビによるNOの解毒については 多くが未解明でした。そこで、私たちは、麹菌とも類縁な Aspergillus nidulansを対象として、カビのNO解毒に関わる 遺伝子を探索してきました。

研究の成果

 私たちは今回、iNTと名付けた23アミノ酸からなるペプチ ド(小さなタンパク質)を発見し、iNTがNOを解毒する新たな メカニズムを構成することを解明しました。  iNTの遺伝子を働かなくしたA. nidulansをNO含有培地 で育てたところ、生育しにくくなったことから、iNTがNOに対 する耐性化に関わることがわかりました(図1A)。そしてこの 耐性化の仕組みを調べ、iNTが持つ6つのシステインのチ オール基がNOと反応してニトロソチオールを形成し、細胞が 普遍的に持っているチオレドキシン系によって再び元のiNTへ戻されることを明らかにしたのです(図1B)。  iNTは、システインに富んだいわゆるチオネインファミリーに 属するペプチドですが、NOによって発現誘導され、NOの耐 性化に関わるという新たな性質を持っていたのです。チオネ インファミリーは、NOではなく重金属によって発現誘導され 細胞を重金属に耐性化させるメタロチオネイン(MT)がある ことで有名でした。iNTという命名は、NO誘導型のニトロソ 化されて機能するチオネイン(inducible nitrosothionein) という特徴に由来します。

今後の展望

 麹菌をはじめとするカビを用いたバイオテクノロジー産業 の価値は莫大で、発酵食品や医薬品、身近な製品に含ま れる酵素などが生産されています。本成果は、NOから受け るダメージに強いカビの育種などを通じ、発酵生産条件下で カビの能力を最大限に引き出す技術の発展につながると 期待されます。

関連する科研費

平成21-23年度 基盤研究(B)「真菌の低酸素応答・適 応・生存戦略の分子機構」