福島原発事故により放出された放射性核種の 環境動態に関する学際的研究(科研費NEWS_2015_vol4)

代表者 : 恩田 裕一  

福島原発事故により放出された放射性核種の 環境動態に関する学際的研究(科研費NEWS_2015_vol4)

筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 教授 恩田 裕一

研究の背景

 2011年3月11日の東日本大地震および津波の発生を 契機として、東京電力福島第一原子力発電所の事故が併 発しました。原子炉施設から放射性核種が福島県周辺地 域に飛散し、大気の拡散輸送過程により全球に拡散した 結果、各学問分野の単独的取り組みでは解決できない複 合的で未曾有の問題となりました。そこで、地球環境科 学の多くの分野に放射化学や放射線計測技術の分野など を加えた分野横断的で新しい学問領域を創設して、この 問題に取り組むことが必須です。本研究では、こうした 長期的な環境中の放射性物質の移行および環境動態予測 に、研究者が英知を結集して取り組み、世界をリードす る新たな研究領域を形成することを目指しています。

研究の成果

主な研究成果として、大気分野においては大気輸送モ デルの整備・高度化を行い、137Cs沈着の時系列変化を よく再現できるようになりました。さらに土壌・生態系 に沈着した放射性物質の再飛散プロセスの解明を進めて います。 海洋では海洋中の放射性セシウム分布状況および総量 の推定を目的として、3H、90Sr、129I の海洋を通じた移 行経路の解明を行い、おおむね初期状況の把握が可能と なりました。また海洋生態系での放射性物質の移行の経 路・メカニズムの解明を進めています。 陸域では森林樹冠から林床への移行量の観測を行った 結果、放射性物質濃度の低減傾向が二重指数関数モデル で再現できることがわかりました。また、河川から海洋 へ流出する放射性セシウムの濃度も二重指数関数モデル で再現でき、濃度低下が早いことが明らかになりました。 森林生態系での放射性物質の移行については、腐葉土へ の移行、放射性セシウムの経根吸収、および葉面、樹皮 からの吸収の実態が解明されつつあります。陸・海洋の 試料において、より簡便で高感度な方法を用いてウラン・ 超ウラン元素組成を詳細に解析した結果、原子炉内の組 成がほぼそのまま環境中に放出されていることが明らか になるとともに、放出総量を見積もることができました。

今後の展望

今後は、新しい研究領域の創成が期待される下記の4 つのテーマについて、重点的な支援を行う予定です。  ①放出時の放射性物質の化学形態の分析に基づく放射 性核種沈着プロセスの推定と移行への影響評価  ②陸域から河川を通じた海洋への放射性核種の移行プ ロセスの解明とモデル化  ③森林における放射性物質の循環プロセスの解明とモ デル化  ④環境中の放射性核種の動態と移行状況の把握に基づ く地点別の被ばく量算定  また、平成28年度には書籍の刊行や公開シンポジウ ムにより5年間の成果を広く社会に還元する予定です。

関連する科研費

平成24-28年度 新学術領域研究(研究領域提案 型) 「福島原発事故により放出された放射性核種の環 境動態に関する学際的研究」