芸術系 山本 美希(やまもと みき)助教
小学生の頃、山本さんの家ではマンガが禁止されていたそうです。なので、書店で立ち読みしたり、友達の家で読んだりしながら、ちょっぴり親への反抗も胸に、自分でもマンガを描き始めたとのこと。高校では、油絵を描くようになりました。その頃は、漠然とアーティストになりたいと考えていただけで、マンガ家になることは全く念頭になかったそうです。筑波大学の芸術専門学群に入学し、いろいろな授業を受けていく中で、少しずつマンガを意識するようになり、気付いたら漫画を描いていたとか。卒業制作は、文字のない234枚のモノクロイラストで構成された作品『爆弾とリボン』。女子中学生の揺れる思いとちょっとした暴走を描き、デザイン系学生の卒業制作を対象とするMITSUBISHI CHEMICAL JUNIOR DESIGNER AWARDで日比野克彦賞を受賞しました。タイトルを変えて出版した『爆弾にリボン』は、サイレント・グラフィック・ノベル(無声マンガ)と形容されて話題に。そのタッチには、不世出のマンガ家岡崎京子を思わせるものがあります。じつは、あこがれのマンガ家がまさに岡崎京子だとか。
大学院に進学し、出版社主催の新人賞に応募した初めてのストーリー漫画『Sunny Sunny Ann!』 が大賞を受賞し、不定期連載の後に単行本化。主人公は前作の女子中学生から、一気に大人の女、それもちょっとアウトローの車上生活者。画風も一変。異なるシチュエーションを設定して女性の生き方を描いてみたいというのがモチーフだったそうです。この作品は、第17回手塚治虫文化賞新生賞という大きな新人賞に輝きました。第三作は、日本人の夫に蒸発され、しだいに壊れていく外国人女性を描いた『ハウアーユー?』。作品ごとに作風や手法を変えながらゆっくりしたペースでマンガ制作を続ける傍ら、大学院で選んだ研究テーマは「言葉のない絵本」。文字による説明なしに、イラストだけで物語を組み立てていく形式の絵本のジャンルは、特に目新しいものではありません。しかしそれをアート表現という観点から分析した研究は多くないといいます。マンガでは、文字なしでもカット割りの工夫で物語に変化をもたせながら展開していくことができます。基本的にページ単位、見開き単位で勝負することになる絵本では、アーティストのチャレンジ精神がなおいっそう煽られるのかもしれません。しかも、文字がない絵本となればなおさら。
大学ではマンガ制作の授業も担当しています。必ずしもマンガ家志望の学生というわけではありませんが、みな、最終的には8ページの作品を器用に仕上げてくるそうです。作風も、ほのぼのマンガからシリアスなものまで様々。マンガの評価については意見が分かれるところですが、山本さん自身は、表現したい内容と手法が一致していることがよいマンガの大前提だと考えています。マンガというジャンルは、簡単そうに見えて実はいくつもの要素が組み合わされた高度な技量が要求されます。キャラクター設定、ストーリー展開、コマ割り、せりふの入れ方、タッチ等々、組み上げていかなければなりません。なので、大学生くらいにならないと、まがりなりにも作品と言えるものを仕上げることは難しいそうです。
作品展やアート展への出品もしています。茨城県北芸術祭KENPOKU ART 2016では、常陸大宮市の廃校になった中学の教室に、『爆弾にリボン』の中の教室シーンを展示するインスタレーションを制作しました。そのほか、常陸多賀駅前の歩道には、コンクリートブロックの表面に転写するイラストとマンガを提供。作品が街に出ました。今後の創作の目標としては、マンガでやりたいことはまだまだたくさん。フルカラー作品や原作のあるマンガにも挑戦してみたい。それともう少し時間がかかりそうだけれど、自分でも言葉のない絵本に挑戦すること。教員、研究者としてはまだ駆け出しで、学内の事務手続きもおぼつかない状態。それでも、ロンドンで開催されたマンガの国際シンポに招待されたり、授業の準備にも少しずつ余裕が出てきたそうです。創作と教育と研究、二足ならぬ三足のわらじ生活が続きますが、しばらくはマイペースを保てそうです。
KENPOKU ART 2016に出品した作品(撮影:木奥恵三)