生命環境系 粉川 美踏 助教
「おいしい」とはどのような感情だろうか。個人差はあるだろうが、それが味そのものだけでなく、匂いや食感など多くの要因に影響されるのは間違いない。
粉川美踏助教(生環系)は、食感や味覚の一つであるうま味など、「おいしさ」を可視化する研究を行っている。
現在、味や香りといった食品品質の検査は、測定者の五感に頼る「官能検査」に多くを頼っている。だが、感覚には個人差があるうえ、疲労などで測定結果が変わる場合がある。官能検査のほかには、目的とする成分を抽出して化学分析を行うこともできるが、この場合、商品からサンプルを抜き出して測定するため、商品全体との数値に違いが出る可能性がある。
そこで粉川助教は食品に光を当てて、食品中の成分を可視化する方法に着目した。物体は光が当たると、一部の波長の光を吸収し、残りを放出する特性を持つ。これを生かすと、食品中の成分が放出した光を見れば食品の成分を検知できる。そして粉川助教はこの光を写せる特殊カメラを使い、研究を続けてきた。
その一つが食肉の熟成度の計測だ。
肉は熟成すると香りが良くなり、うま味成分の特徴が際立つが、これは熟成することで、うま味を持ったペプチドやアミノ酸が増加するためだ。
だが肉は、種類によって熟成に必要な期間が異なり、例えば気温4度で貯蔵した場合、豚肉では3日〜5日、鶏肉は半日〜1日かかる。そこで粉川助教はペプチドやアミノ酸が放出する光を計測。肉の種類や部位ごとに熟成に必要な時間を正確に突き止めようと、研究を続ける。
また、この技術を応用したのが「食感」を可視化した研究だ。パンの「食感」は小麦粉と水が混ざる過程でできる「グルテン」という成分によって作られる。
そこで、グルテンが放出する光を見ることで、パンが「ふわふわ」しているか「もちもち」しているかなどの食感を可視化できた。
粉川助教によると、現在の問題点は計測にコストがかかるため、実用化が難しいことだ。だが、実用化されれば、食品全てを一番食べごろのときに調理し、食べることができる日は近いかもしれない。そしてそれが料理を楽しくさせ、日々の食卓を明るくするのは間違いない。
「おいしい」食べ物を食べなくても判別できる。そんな日を期待したい。