筑波大学数理物質系 伊藤良一准教授は、大阪大学 大戸達彦助教、東北大学 阿尻雅文教授らと協力して、シリカナノ粒子を付着させたニッケルモリブデン卑金属多孔質合金の上にグラフェンを蒸着することで、ナノサイズの穴の空いた3次元構造を持つグラフェンで覆われた、酸性電解液中で長時間溶けずに水の電気分解で運用できる水素発生電極を、世界で初めて開発しました。
このグラフェンのナノサイズの穴は、酸性条件下ですぐに溶解してしまう卑金属電極に対して、①酸性電解液と卑金属表面との過度の接触を防いで卑金属の溶出(腐食)を最小限に抑え、②酸性電解液と卑金属表面が直接接触できるナノサイズの化学反応場を与える、という二つの役割を持っています。
本研究で開発した卑金属合金電極は、従来の卑金属電極は酸性電解液で10分も経過せずに腐食してしまうのに対して、初期電流値を2週間以上維持しました。現在、次世代エネルギー源として注目される水素の、クリーンな製造プロセス(水の電気分解)において、電極に用いられている白金(1グラム当たり3800円程度)の使用量を減らすことが課題となっていますが、本電極は白金の100分の1のコストで合成できることから、大量生産への移行を視野に、低コストな電極への展開が期待されます。
図 穴の空いたグラフェンで被膜したニッケルモリブデン(NiMo)の作製概要図と水素発生のしくみ。シリカナノ粒子と酸化ニッケルモリブデン(NiMoO4)ナノファイバーを混ぜて加熱還元し、連続的に化学気相蒸着法でグラフェンを成長させると、一部穴の開いたグラフェンに覆われているニッケルモリブデン表面が生成する。穴の空いた部分では水素イオン(硫酸水溶液)と表面が接触し水素が発生、穴の空いていない部分では硫酸水溶液との過剰な接触が防がれている。