筑波大学 医学医療系 大庭良介准教授と弘前大学 人文社会学部 日比野愛子准教授は、生命科学・医科学の研究領域において、①萌芽的トピックが新たな萌芽的トピックを生み出す場合が7割以上であること、②少数のノーベル賞級のトピックの萌芽は、萌芽的トピックの動向とは独立して生まれる場合が7割以上であること、という萌芽的科学技術およびノーベル賞級研究成果が創出されるプロセスの一端を計量学的に明らかにしました。
萌芽的科学技術の創出原理を解明することは、科学技術の発展促進に不可欠であり、科学技術政策や産業投資にも貢献するだけでなく、科学史・科学社会学分野コミュニティの理解促進にも重要です。本研究グループは、生命科学・医科学領域最大級の文献データベース「PubMed (Medline)」に格納された全論文データを対象に、萌芽的トピックを同定する独自の手法を開発し、この半世紀に渡る研究動向・歴史を、萌芽的トピックから定量的に記述することに取り組んできました。今回、これに基づいて、その萌芽的トピックを創出するプロセスの解明に成功しました。本研究成果は、科学技術政策立案や研究費の分配、科学社会学的な実証科学発展のプロセスの考察などへ、一石投じるものです。
図 本研究で明らかとなった生命科学・医科学分野における萌芽的トピック(Emerging Topic, ET)創出プロセス(図中、小文字a~oが研究トピックの要素、大文字AとBが突如として現れた要素、ETα~ETζは別個の萌芽的トピックを表す。)
それぞれの萌芽的トピックは、様々な要素(現象、疾患、プロセス、物質名、遺伝子、生物種、解剖学的部位、技術、デバイスなど)から構成されています(例えば、期間Iの萌芽トピックETαは、要素a, b, cから構成されています)。それぞれの期間で、萌芽的トピックと萌芽的トピックを構成する要素は限られています(全体の1割程度)。萌芽的トピックは、要素を取り込んだり、放出することで、新しい萌芽的トピックとなっていきます。例えば、仮想期間Iの萌芽的トピックETαは、要素bとcを放出し、要素dとeを新たに取り込むことで、仮想期間IIに新たな萌芽的トピックETβとなります。放出された要素cは新たに要素gを取り込むことで、仮想期間IIに萌芽的トピックETγを創出します。仮想期間IIにおいては、突如新たに登場した要素Aが、要素iを取り組んで新たな萌芽トピックETδを創出します(ノーベル賞級のトピックの場合、このパターンが多い)。萌芽的期間を過ぎて成熟・定着したトピックは萌芽的でなくなります。仮想期間IIにおけるETδは仮想期間IIIにおいては、成熟・定着し、もはや萌芽的トピックではありません。萌芽的トピックの要素が再度萌芽的トピックの創出に関わることも多く、例えば、仮想期間IIのETβは仮想期間IIIにおいて要素bを再度取り込み、新たな萌芽的トピックETεとなります。萌芽的トピック研究の進展に伴い、突如新たな要素が表れて、新たな萌芽的トピックを創出することもあります。例えば、仮想期間IIの萌芽的トピックETγは、仮想期間IIIにおいて、突如要素Bを生み出し、新たな萌芽的トピックETζとなります。多くの研究要素(図中のf, h, j, k, l, m, n, o)は、萌芽的トピック創出に関与しません。