代表者 : 山田 洋
朝起きて、体を動かし、ご飯を食べて、寝る。そうした私たちの日常生活全ての間、脳の神経細胞が活動しています。そして、その活動に応じて物を認識し、感じ取り、行動を生み出します。この脳活動はよく計算に例えられます。コンピューターは0と1を組み合わせた2進数で計算しますが、脳の神経細胞はどのように計算しているのか、その根本的な計算の原理はよく分かっていませんでした。
本研究では、数学を用いた新たな解析技術を開発することで、神経細胞の集まりが、期待値と呼ばれる確率と量の掛け算を行う仕組みを発見しました。
具体的には、ヒトと同じように期待値を計算する訓練をした実験動物のサルで、脳活動を記録しました。その記録した脳活動を、線形代数と多変量解析と呼ばれる二つの数学的な手法を組み合わせた、新開発の技術で解析しました。従来の解析手法は、便宜的に脳の神経細胞の活動を一定時間の平均として捉えていたため、ごく短時間の間に瞬間的に現れる脳の活動を捉えることができませんでした。しかし、新たに開発した解析手法では、時々刻々と変化する脳の神経細胞の活動を真に0.02秒毎に捉えて、精密に解析することができます。
その結果、実験動物のサルでは、脳の中の二つの領域(前頭眼窩野中央と腹側線条体)が、期待値を計算していることを示す活動をすることが明らかとなりました。まるで、ヒトが暗算をするようにサルが瞬時に掛け算を行っていることを意味するような、脳の神経細胞の活動です。
今回開発した脳活動の解析技術は、誰でも簡単に、ほぼ全ての神経活動データを解析することが可能です。この技術を用い、脳における新たな計算の仕組みが続々と発見されることが期待されます。