代表者 : 秋山 肇
日本では2020年3月以来、新型コロナ感染症対策として、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、休業や営業時間短縮の要請・指示、外出自粛要請が行われ、2021年2月には罰則も導入されました。これらの措置には、日本国憲法が保障する営業の自由や移動の自由など、個人の自由を制限する側面がありますが、それが憲法上認められるかについては、十分に検討されていません。本研究は、特に生命権と国家の義務の観点から、この問題を罰則導入前の時点で検討し、憲法が、営業の自由および移動の自由の制限を許容し、さらに新型コロナ感染症対策により生命へのリスクを低減させる義務を負っていることを明らかにしました。
本研究ではまず、憲法上の概念を、「個人の自由を保障する概念」と「個人の自由を制限しうる概念」に分けて検討しました。営業の自由と移動の自由は前者に属し、主に居住、移転および職業選択の自由(憲法22条)および財産権(同29条)により保障されます。一方、後者には、生命権(同13条)、生存権・公衆衛生(同25条)および公共の福祉(同13条)が含まれます。さまざまな学説や判例から、公衆衛生の保持は公共の福祉に含まれるとされていることから、憲法は、営業の自由および移動の自由の制限を許容していると考えられます。また、これまで自己決定権の一部と考えられてきた生命権を独立した権利と捉えると、政府は、新型コロナ感染症に起因する生命へのリスクを低減させる責任を負うといえます。
今後さらに、罰則導入に伴う影響の分析、ポスト・コロナ時代の国家観や社会像と憲法の関係についての議論を進める予定です。