外国人の若者が主導する研究 YPARを通じたエンパワメント | 德永 智子 | 筑波大学「知」活用プログラム 成果インタビュー

代表者 : 德永 智子  

德永 智子 Tokunaga Tomoko

日本にいる外国人高校生たちがコロナ禍をどう過ごしているか。どうすれば困難な状況を改善できるか。そこには、外国人の若者だからこそ見えてくる解決策があります。「若者参加型アクションリサーチ」(YPAR)は、若者の経験を起点として、若者自身が研究者と対等な立場でリサーチに取り組み、課題への解決策を考える、社会を変えるための研究方法です。この方法を通じて若者たちのエンパワメント(能力開化)も実現しようとしています。本研究では、コロナ禍でより多くの困難を抱えながらも、それを乗り越えようとする若者たちの姿を見いだすことができました。

 

「知の生産プロセスを民主化する」

通常の若者対象の研究では、研究者が主体となってデータ取得や分析、また成果発信をするものです。これに対し、「若者参加型アクションリサーチ」(YPAR:Youth Participatory Action Research)では、若者自身が研究主体となって若者たちにインタビューをしたり、そこから得られた声を世に届けたりします。若者だからこそ、同世代の若者たちから聞き出せる声があり、そこから研究者も学びを得ることができます。研究者のみが権限をもって成果を示すのではなく、若者もリサーチ経験などを通じて力を付けられることから、YPARは「知の生産プロセスを民主化する」研究方法ともいえます。

私たちの取り組んだ「コロナ危機に立ち向かう外国人高校生」の研究では、インド出身のアルジュンさんとフィリピン出身のパオロさんがユースリサーチャーとして、国籍がフィリピンやネパールなどの定時制高校生・専門学校生ら11名にオンラインインタビューをし、文字起こしやデータ分析にも携わりました。アルジュンさんたちは、「先輩」として、インタビューをした相手の人たちからの相談に乗るといった経験もしていました。

図1 本研究(YPAR)の概念図(上)とYPAR研究チームメンバーのオンラインミーティングの様子(下)ユースリサーチャーのアルジュン・シャさん(画面右下)は「自粛で人との関わりが減りメンタル面の負担を感じた」という自身の経験を踏まえて、メンタル面の変化などを尋ねる質問を企画した。研究の経験を通じて、「それぞれに経済的問題があることや、感染への恐怖が増していることがわかりました。感染防止策などの情報共有もしました」という。(左から右へ)上段:徳永智子助教、渡邉さん(NPOカタリバ パートナー)、ジョシさん(東京大学大学院生) 下段:パオロさん、アルジュンさん

コロナ禍による困難の顕在化と、工夫で乗り越えようとする姿と

現在、YPARによるインタビューと、2020年10月に共同研究者のジョシさんがファシリテーターとなって実施した高校生らのストーリーテリングをもとに、データ分析を進めているところです。

これまでに、次のような外国人高校生たちの実態が見えてきました。

1つ目は、彼らが抱えていた困難や課題が、コロナ禍で顕在化したことです。以前から経済的な困難があったのに、さらにアルバイトが減ったりして、学費を支払えずに学校の中途退学を余儀なくされた人がいました。また、休校中に学校から課題が送付されてきたものの、ルビ振りなどの多言語対応が不十分で取り組めなかった人もいました。

2つ目は、そうした困難な状況でも工夫して乗り越えようとする能動的姿勢が彼らにあることです。自粛生活の中で新たな趣味を見いだしたり、母国語・英語・日本語を駆使してSNSなどから世界の感染拡大状況を把握したり、母国と日本の対策を比較したりする人もいました。

 

図2 カタリバと連携して、日本とフィリピンをつないでのオンラインプログラムを実施した。ストーリーテリングのファシリテーターをつとめたジョシ・ディネスさん(ネパール出身)は、「従来の日本人の視点からの研究と違い、自分のような外国人が研究に関わって外国人の若者たちの抱える問題などを知ることができた点に、研究の意義がある」と感じている。「外国人の若者たちのなかには自粛中、フェイスブックなどで母国の親類や知人とやりとりして安心を得ている人が多くいました。一方、ソーシャルメディアを使いすぎて生活リズムが乱れたと訴える人もいました。その影響の二面性をあらためて感じました」(ジョシさん)。

 

加えて、アルジュンさんをはじめ研究に携わった人たちそれぞれが「気づき」を得られたと言っています(図のキャプションのコメント参照)。これも研究の成果です。

図3 共同研究団体であるNPOカタリバのパートナーの渡邉慎也さん(画面上から3番目)は、ユースリサーチャーたちの研究支援・調整役を担った。「アルジュンやパオロが尋ねたからこそ引き出せた、『外国人高校生たちの本音』も多くありました。先輩・後輩の関係性から生まれる共感や寄り添いの効果の大きさを感じました」と話す。研究では一般社団法人kuriya(海老原周子代表理事)も共同研究団体として参加し、YPARを進める上でアドバイスをしたり、情報発信の拡充をはかるなどの協力があった。

教育学の分野でYPARを発展させていく

日本においてYPARは、社会福祉学など一部の分野には導入されていますが、教育学での事例はまだほとんどありません。「知」を生産する主体として若者を尊重し、マイノリティのエンパワメントも伴う研究方法として、私自身もYPARの可能性を感じているところです。

今後は引き続きYPARによるインタビューの実施と分析を重ねていくとともに、共同研究団体であるkuriyaやカタリバと連携して、より多くの外国人の若者たちがYPARに携われるようなプログラムを構築していきたいと考えています。

德永 智子(筑波大学 人間系)
Project Name / コロナ禍において移民生徒の学びを再構築

(取材・執筆:漆原 次郎 サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)

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