養殖魚の疾病予防に有効な「食べるワクチン植物」を葉緑体工学で開発-低コスト・省力・高免疫原性を備えた「水産用経口ワクチン」の実用化に期待

代表者 : 竹内 薫  

茨城大学農学部の中平洋一 准教授、同学部生(当時)の土倉みなみ さん、愛媛県農林水産研究所水産研究センター、筑波大学医学医療系の竹内薫 准教授、摂南大学農学部の椎名隆 教授の研究グループは、葉緑体工学を用いて、魚病ウイルス由来の抗原タンパク質を大量生産する遺伝子組換え植物を作出し、その植物から調製した粗抽出液を餌に混ぜて魚に経口投与することで魚病を予防できる「水産用経口ワクチン植物」を開発しました。

ウイルス性神経壊死症は、世界中で蔓延している深刻な魚病です。現在、原因ウイルス(RGNNV)を不活化した注射型ワクチンが実用化されているものの、接種に労力・時間がかかる、ワクチンが高価、小さな仔稚魚には接種できない等の課題があります。
本研究では、葉緑体工学を用いることで、遺伝情報がなく感染性のない「ウイルス様粒子(VLP)」を大量発現する遺伝子組換えタバコを作出しました。さらに、その緑葉から調製した粗抽出タンパク質を餌に混ぜて対象魚(マハタ)に経口投与したところ、市販の注射型ワクチンと同等の免疫原性を示し、ウイルス感染を効果的に予防できることが分かりました。

植物を用いたタンパク質生産は、他のバイオリアクターよりも低コストというメリットがあります。今後、レタス等の食べられる植物を宿主として組換え体を作出できれば、植物乾燥粉末をそのまま餌に混ぜて経口投与することができ、画期的な「水産用経口ワクチン」の実現につながることが期待されます。
この成果は、2021年8月23日、学術雑誌Frontiers in Plant Science に掲載されます。