現代社会で私たちの身の回りの生活や産業を支える根幹的な技術が、半導体を利用したエレクトロニクス(電子工学)やオプトエレクトロニクス(光電子工学)です。そこで使われるデバイスを微細化することで、省電力化や高速化が進んできました。半導体素子の単位は10nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)を下回る領域に入り、動作時間のスケールも1ps(ピコ秒、ピコは1兆分の1)に迫っています。更なる性能向上が進められていますが、その進歩故にデバイスの性能を測定することさえ困難になってきました。現在は、デバイス中の原子1個1個を区別しながら1psより十分に速い時間領域で物質の電気的特性を調べたり、撮像したりする技術の確立が求められています。
固体表面のイメージングでは、「走査型トンネル顕微鏡(STM)」という装置が用いられてきました。先端が原子1個ほどの細さの金属探針に電圧をかけ、探針と試料との間に流れる電流を測定してイメージングします。STMではこれまで、テラヘルツ(THz)電磁波を用いることで、1ピコ秒の時間精度で1 nmより小さな原子で構成される半導体表面の構造や電子状態を実空間イメージング計測する技術が確立されていました。
本研究では、中赤外線と呼ばれる光を利用した新しい技術を用い、従来と比べ30倍速い30fs(フェムト秒、フェムトは1000兆分の1)の世界の時間領域(≒30兆分の1秒)で、原子や電子の動きを実空間(3次元空間)イメージング計測できる時間分解STM法を世界で初めて開発しました。
次世代電気デバイス材料として期待がかかる層状半導体MoTe2(二テルル化モリブデン)試料に本手法を適用し、試料に瞬間的に光を当て、その後の変化を観察しました。その結果、MoTe2のバンドギャップエネルギー(材料の電子状態を定める特性の一つ)が光励起により変化する様子を、従来にない時間精度で、直接観察することができました。
本手法の登場により、次世代の光メモリーや光電変換デバイスなど新たな材料や素子の開発・機能開拓の進展が期待されます。
PDF資料
プレスリリース
研究代表者
筑波大学数理物質系 物理工学域/イノベイティブ計測技術開発研究センター
重川 秀実 教授
嵐田 雄介 助教