文章の難易度(読みやすさ)を正確に評価することは、言語教育において重要な課題だ。学習者の習熟度に合った教材の選定や開発につながるからだ。このため、国際的に広く使用されている英語については、読みやすさを評価するための方法(指標)が特に多く提案されてきた。 それらの指標について名畑目真吾助教(人間系)は「読みやすさの中でも、文章の理解しやすさに主眼を置いた指標だった」と指摘する。しかし、読みやすさを評価する上では、読解にどれだけ労力を割く必要があるのか(処理労力)という観点も重要だ。 そこで名畑目助教は、これまで提案されてきた読みやすさの指標を複数用いて、英語学習者が読解に割く労力を予測できるかどうかを調べた。 その際、読解中の視線の動きを計測することで処理労力を評価した。名畑目助教は「視線計測では学習者の自然な読解状況を観察することができる」とする。 実験では、単語と文の長さを基準として読みやすさを評価する伝統的な指標と、コンピューター技術(自然言語処理)を活用して、文章の多様な言語的特徴を考慮する新たな指標の大きく種類を用いた。後者の指標では、単語の使用頻度や獲得年齢、文の構造の複雑さなどをコンピューターによって解析し、読みやすさを評価する。 また、読解にかける労力を示すデータとしては、▽読解中の平均注視時間▽注視と注視の間に視線が移動する長さ▽読み戻り▽読み戻し――が英文読解中にどれだけ行われるかを計測した。 分析対象としたのは、日本語を母語とする筑波大の学群生と大学院生計48人から収集したデータと、オランダ語を母語とする学部生と大学院生計19人の公開データだ。 筑波大の学生に対しては、実用英語技能検定の準2級、2級、準1級の試験で過去に出題された問題から抜粋した短い文章を読解してもらった。被験者の英語力を考慮し、易しい文章から難しい文章までを採用した。 オランダ語を母語とする学習者の解析に使ったのは、研究用に公開されている視線計測データで、長めの小説を読解してもらったものだ。 分析の結果、日本語を母語とする学習者を対象とした分析では、伝統的な読みやすさの指標は読解中のいずれの視線パターン(処理労力)も予測することができなかったのに対し、コンピューター技術を利用した新たな指標は平均注視時間を有意に予測することができた。 一方、オランダ語を母語とする英語学習者の場合、平均注視時間については新たな指標よりも伝統的な指標の方が正確に予測できたが、視線移動の長さと読み飛ばしの予測については、新たな指標の方が予測に優れていた。 この結果から、伝統的な読みやすさの指標でも処理労力を一部予測できることが分かったが、新たな指標の方がより正確に処理労力を反映する可能性が示唆された。 読解に要する労力が正確に評価できれば、学習者のつまずきをあらかじめ把握できるため、学習指導にも役立つと期待される。 ただし、今回用いた読みやすさの指標では予測精度はまだ不十分で、名畑目助教は「処理労力の観点から英文の読みやすさを評価するには、新たな指標の開発が必要だ。まだ研究の足がかりの段階で、分からないことも多い。今後は他分野の研究者とも共同しながら、更なる研究を重ねていきたい」と話している。(及川千翔=人文学類2年)
視線の動きで読みやすさ予測 学習者に合った読解教材開発へ
代表者 : 名畑目 真吾