地球上の生物はアミノ酸を重要な構成要素としていますが、鏡像関係にある2つの異性体(L体とD体)のうち、L体のアミノ酸のみを使用しています(ホモキラリティ)。一方、アミノ酸を人工的に化学合成した場合では、L体とD体のアミノ酸はそれぞれ同じ量が生成されます。しかしながら、実験的検証が不足しており、地球上でなぜL体のアミノ酸が過剰に生成したのか、そのプロセスは明確にされていませんでした。
本問題に関連する有力な説として、アミノ酸は宇宙から隕石によって原始地球にもたらされたとする宇宙起源説が提唱されています。また、宇宙では円偏光が存在することから、L体に比べてD体が優先して分解されることでL体の過剰が生じる機構が考えられます。そこで本研究では、これまで不足していた実験データを高精度量子化学計算を用いて補完することで、アミノ酸のL体過剰が生成される分子機構を検証しました。
その結果、円偏光によるアミノ酸自体のL体過剰生成は弱いことが理論的に判明しました。アミノ酸生成の前駆体に対して同様の理論検証を行った結果、10-11電子ボルト(eV)の光領域において、L体過剰を強く引き起こすことが明らかになりました。この光領域には、銀河形成の初期に強く放射されるライマンアルファ輝線が存在します。さらにこの輝線は星間の塵(ダスト粒子)で散乱し、円偏光化されることが示されていることから、今回理論的に検証したアミノ酸前駆体によるホモキラリティ獲得機構は、生命の起源を解明する重要な手がかりになると期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学 計算科学研究センター(CCS)
庄司 光男 助教
掲載論文
【題名】 Enantiomeric Excesses of Aminonitrile Precursors Determine the Homochirality of Amino Acids
(アミノ酸のホモキラリティはアミノニトリル前駆体の異性体過剰に起因する) 【掲載誌】 The Journal of Physical Chemistry Letters 【DOI】 10.1021/acs.jpclett.2c03862