生命科学実験をロボットやコンピュータなどを活用して自動化する「実験自動化」が世界中で注目を集めています。実験自動化が進めば、生命科学研究の効率化や再現性の向上、研究者を含む人間のリソース配分の最適化につながることが期待されます。これまでもさまざまな分野で実験自動化が行われてきましたが、大型で多機能なロボットや専用装置を用いて実装されることが多く、筐体数の拡大や、一般の研究室への新規導入が難しいという問題がありました。一方、比較的導入が容易な、シンプルな機能を持つロボットを用いた生命科学実験の自動化例は限られており、ラインナップの拡大が求められています。
本研究では、シンプルな機能を持つ液体分注ロボットを用い、真核生物のモデル生物である出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のスポットアッセイの自動化システムを構築しました。スポットアッセイとは、寒天培地上での酵母の増殖能の違いを評価する実験のことで、遺伝学や毒性学においてよく用いられています。しかし、これまでは大型のロボットや専用装置を使うなど導入コストが高い手法でしか自動化がなされていませんでした。本研究チームは、寒天培地の高さのばらつきを自動で補正する手法や酵母の増殖を自動で観察・定量するシステムを新たに開発し、シンプルな機能を持つ液体分注ロボットと接続することで、スポットアッセイの自動化システムを構築しました。開発したロボットシステムによる自動実験と人間による手動実験を定量的に比較した結果、開発した自動スポットアッセイ実験の精度が人間に劣らないことが示されました。
本研究成果を活用することで、より幅広い研究者が実験自動化を導入しやすくなるとともに、AI(人工知能)駆動型実験やより大規模な酵母実験を自動化する際の技術基盤となることが期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学医学医療系
尾崎 遼 准教授
掲載論文
【題名】 Automation of yeast spot assays using an affordable liquid handling robot
(扱いやすい自動分注ロボットによる酵母スポットアッセイの自動化) 【掲載誌】 SLAS technology 【DOI】 10.1016/j.slast.2022.12.001