リボソーム内の化学的性質が翻訳中のタンパク質の立体構造に影響する

代表者 : 原田 隆平  

細胞内でタンパク質合成を行うリボソーム内部の環境を模倣する構造モデルを作成し、計算機シミュレーションにより、リボソームで合成されたタンパク質が通過するトンネル内の多様な化学的性質が、翻訳中のタンパク質における立体構造形成に影響を及ぼすことを明らかにしました。
細胞内でタンパク質合成を行うリボソームにおいて、合成されたタンパク質は、リボソームトンネルと呼ばれる筒状の空間を通って放出されます。近年、一部のタンパク質はリボソームトンネル内で立体構造を形成し、その構造が機能的な意義を持つことが報告されてきました。しかし、その構造形成メカニズムは、よく分かっていませんでした。

本研究では、これまで報告されたリボソームトンネルの立体構造を網羅的に解析し、その重要な特徴であるトンネルの内径と化学的性質を反映したRibosome Environment Mimicking Model(REMM、リボソーム環境模倣モデル)と呼ばれる筒状のモデルを作成しました。また、化学的性質は反映せず内径のみを再現した従来型のモデルとして、炭素原子のみからなる筒状の分子であるCarbon Nanotube(CNT)を比較用モデルとして用意しました。次に、これら2つのモデル内部における、さまざまなタンパク質の構造を分子動力学シミュレーションにより解析しました。その結果、本研究で考案されたREMMの方が、実験的にリボソームトンネル内で観測されていたタンパク質の構造をよく再現していました。さらに、REMMが反映する化学的性質がCNTと比べて多様であることが、実験構造をよく再現できた要因であることが分かりました。すなわち、リボソーム内の多様な化学的性質が、翻訳中のタンパク質における立体構造形成に重要だということができます。REMMを発展させることで、実際の細胞内におけるタンパク質の立体構造に対する理解が深まると期待されます。

PDF資料
プレスリリース

研究代表者
筑波大学 計算科学研究センター
原田 隆平 准教授
保田 拓範 日本学術振興会特別研究員・生物学学位プログラム 博士後期課程3年

掲載論文
【題名】 Ribosome Tunnel Environment Drives the Formation of α-helix During Co-Translational Folding
(リボソームトンネル環境は翻訳共同的な Folding おける α-helix 形成の駆動力である) 【掲載誌】 Journal of Chemical Information and Modeling 【DOI】 10.1021/acs.jcim.4c00901