「分離的な場」は障害者にとってポジティブな心理的変容をもたらす

代表者 : 宮内 久絵  

中途視覚障害者にとって、視覚特別支援学校のような障害者が集まる「分離的な場」の存在が、受障後の前向きな心理的変容に大きく貢献していることを見いだしました。障害の有無に関わらないインクルーシブな社会の実現のためには、分離的な場の果たす役割への理解も重要であることを示しました。
日本では多くの中途視覚障害者が、障害の受障後、視覚特別支援学校で社会復帰を目指しています。障害のある人々が集まる場は「分離的な場」といわれ、しばしば批判の対象となりますが、視覚特別支援学校もまた視覚障害者が集まる場であり、分離的な場としての側面を有しています。

障害の有無に関わらず、ともに社会に参加するインクルージョンの理念はとても大切です。しかし、最近の研究では、その実装に伴って分離的な場が失われたことによる負の影響も報告されており、分離的な場の積極的な意義についても検討する余地がありました。

本研究グループは、これまで、視覚特別支援学校への入学により、中途視覚障害者が前向きな心理的変容を遂げることを明らかにしてきましたが、なぜそれが生じるのかは解明できていませんでした。

今回、障害当事者から聞き取り調査を行い、その語りの分析から、分離的な場としての視覚特別支援学校には、当事者のポジティブな心理的変容に貢献する2つの機能として、①出会いにくい同じ境遇を有する当事者同士を出会わせ、相互に助け合い、協力し合う場所、②障害に特化した専門性を有し、当事者のニーズに配慮した教育活動を展開し、視覚障害がさらに進行当事者を受け止め、自信を与える場所、という役割を担っていることが分かりました。

インクルーシブな社会の実現のためには、分離的な場に対する柔軟な理解も重要だと考えられます。

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プレスリリース
研究代表者
筑波大学人間系
宮内 久絵 准教授

筑波技術大学保健科学部保健学科
松田 えりか 助教(筑波大学大学院障害科学学位プログラム博士後期課程3年)
掲載論文
【題名】 The Meaning of Segregated Placements from the Perspectives of People with Acquired Visual Impairment: Focusing on Posttraumatic Growth and Japanese Schools for the Blind.
(中途視覚障害者の観点からみた分離的な場の意味-Posttraumatic Growthと視覚特別支援学校に焦点を当てて-) 【掲載誌】 British Journal of Visual Impairment 【DOI】 10.1177/02646196241283527