・⼤型放射光施設 SPring-8※1 の BL40XU/BL19B2 に、せん断と X 線散乱を同期させる放射光 rheoSAXS/USAXS測定系※2を整備。
・不可逆に進むコロイド結晶のせん断融解を、1ミリ秒時間分解で連続観測。
・衝撃せん断では、流れ⽅向へ粒⼦が⼀時的に集まる⼀過性クラスタリングを伴う新しい融解機構を発⾒。
【概要】
公益財団法⼈⾼輝度光科学研究センター(JASRI)の⾚⽥圭史テニュアトラック研究員、岩本裕之研究
員(研究当時)、関⼝博史主幹研究員、⼀般財団法⼈⾼度情報科学技術研究機構(RIST)の⼭⽥達⽮⽒(研
究当時)、⼿島正吾⽒、筑波⼤学の⽯橋諒⼀⽒(⼤学院⽣)、⼩林幹佳准教授、藤⽥淳⼀教授、住友電気⼯
業株式会社の⼤久保総⼀郎⽒(研究当時)からなる共同研究グループは、⼤型放射光施設 SPring-8 の
BL40XU およびBL19B2 において、せん断下の微粒⼦構造をその場観察する放射光rheo-SAXS/USAXS
測定系を開発し、コロイド結晶※3が衝撃的なせん断を受けた直後、わずか1ミリ秒で構造変化を開始す
る過程を直接観測することに成功しました。
不可逆に進むせん断融解を1ミリ秒時間分解で連続観測した放射光rheo-SAXS は世界に類例がなく、
本成果は、ソフトマターの変化は緩慢だという従来のイメージを覆すものです。
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さらに、衝撃せん断では粒⼦が流れ⽅向に⼀時的に集まるクラスタリングを伴って結晶が融解するこ
とを明らかにしました。SPring-8 に整備した本計測基盤は、⾮平衡ソフトマターにおける瞬間的な相転
移の解明や、コロイド材料の流動設計に役⽴つことが期待されます。
本研究成果は、5⽉8⽇に国際科学誌「Communications Chemistry」に掲載されました。
【研究の背景】
コロイド結晶は、サブマイクロメートルの粒⼦が規則正しく配列したソフトマターで、原⼦結晶の相
転移を理解するモデル系として研究が進んでいます。しかし、流れやせん断によって結晶が崩れる「せん
断融解」は、⾼速で不可逆に進⾏するため、とくに融解直後の過程は⼗分に理解されていませんでした。
光学顕微鏡には試料の透明性や粒径サイズに制約があり、X線・中性⼦散乱では⼀般に露光時間が数⼗秒
以上と⻑く、不可逆に進む⾼速現象の連続観測が難しいことが課題でした。
【研究内容と成果】
・測定系の開発
研究グループは、レオメーターとX線透過クエットセルを組み合わせ、BL40XUで1ミリ秒の時間分
解SAXS、BL19B2で100ミリ秒の時間分解USAXSを実現しました。これにより、ナノメートルからマ
イクロメートルまでの構造情報をその場で連続追跡できるようになりました。
・定常せん断下の挙動
直径約500 ナノメートルのシリカ粒⼦からなる⾼濃度懸濁液は、緩やかなせん断で結晶配列を形成し
ます。せん断速度を徐々に上げた定常条件では、結晶性を⽰すブラッグピークがほぼ⼀様に弱まり、粒⼦
配置の乱れを表す等⽅的な散乱が増加しました。これは、結晶全体が⼀様に無秩序化する通常のせん断
融解を⽰しています。
・衝撃せん断下の新機構
これに対し、整列した結晶に衝撃的に⾼速なせん断を印加すると、開始後わずか 1 ミリ秒で⼀部のブ
ラッグピーク強度が低下し、その後に等⽅的散乱が増加しました。この時間差は、まず流れ⽅向のクラス
タリング構造を保持しながら渦度⽅向の秩序が壊れた後、全体が融解することを意味します。さらに粒
⼦シミュレーションでも、結晶層が直線的に滑ることでこのクラスタリングが⽣じることが⽀持されま
した。
【今後の展開】
今回整備したミリ秒⾼速rheo-SAXS/USAXS は、これまでのソフトマターの「遅い」という先⼊観で
は捉えられなかったであろうソフトマターの超⾼速応答を解明する新しい研究基盤です。今後は、コロ
イド、ゲル、ペースト、スラリーなどの⾮平衡ダイナミクス解析へ展開し、材料設計やプロセス条件の最
適化への応⽤が期待されます。