天然型の活性を上回るフッ素化人工抗菌ペプチドを開発 ―薬剤耐性菌にも有効な次世代抗菌薬の分子設計指針を提示―

代表者 : 原田 隆平  

関西学院大学理学部の佐藤浩平准教授、重藤真介教授、三好涼理さん(研究当時︓理工学研究科 博士課程前期課程)、理工学研究科の村田紘都さん(博士課程前期課程)、森下愛也さん(博士課程前期課程)、筑波大学計算科学研究センターの原田隆平准教授、小幡昂諒さん(生物学学位プログラム 博士後期課程)らの研究グループは、天
然抗菌ペプチド*1「マガイニン2」の一部を芳香族フッ素化*2することで、抗菌活性を大幅に向上させることに成功しました。
本研究では、天然由来の抗菌ペプチドに含まれるフェニルアラニンをフッ素化アミノ酸へ系統的に置き換え、膜との相互作用や
抗菌活性への影響を詳細に解析しました。その結果、芳香族フッ素化によって細菌膜への親和性が高まり、抗菌活性が最大
約 10 倍向上することを明らかにしました。さらに、分子動力学(MD)シミュレーション*3によって、フッ素化ペプチドが細菌膜
に結合し、その高い膜親和性が優れた抗菌活性につながることを分子レベルで解明しました。また、薬剤耐性*4大腸菌に対し
ても優れた抗菌活性を維持し、多くの誘導体では赤血球に対する毒性を大きく増加させることなく性能を向上できることも示し
ました。
本研究成果は、米国化学会が刊行する国際学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に2026年7月30日
付(日本時間)で掲載されました。
ポイント
• 天然抗菌ペプチドを芳香族フッ素化することで、抗菌活性を最大約10倍向上させました。
• MDシミュレーションと膜モデル実験により、フッ素化によって細菌膜への親和性が高まり、それが抗菌活性の向上につながる
仕組みを分子レベルで明らかにしました。
• フッ素化する部位と数が抗菌活性や毒性を左右することを体系的に示し、薬剤耐性菌にも有効な次世代抗菌ペプチドの
分子設計指針を提案しました。 – 1 –
研究の背景と経緯
抗菌薬が効かない薬剤耐性菌の増加は、世界的な医療課題となっています。従来型の抗生物質は細菌の特定の分子を標
的とするため、細菌は遺伝子変異や薬剤排出機構などによって耐性を獲得できます。一方、抗菌ペプチドは細菌膜そのものを
破壊して細菌を死滅させるため、耐性が生じにくい新しい抗菌薬として注目されています。研究グループはこれまで、芳香族フッ
素化によって人工イオンチャネルや人工水チャネルの脂質膜への親和性が向上することを報告してきました。この知見を天然抗
菌ペプチドへ応用すれば、細菌膜への結合を高め、抗菌活性を向上できるのではないかと考えました。
研究成果
研究グループは、天然抗菌ペプチド「マガイニン2」に含まれる3つのフェニルアラニン残基を、フッ素を多数含むペンタフルオロフェ
ニルアラニンへ系統的に置換した7種類の新規抗菌ペプチドを設計・合成しました(図1)。
図1. 天然抗菌ペプチド「マガイニン2」および本研究で開発された7種類の新規抗菌ペプチドの化学構造。
これらのペプチドについて、疎水性、二次構造、人工細胞膜への作用、抗菌活性、赤血球毒性を包括的に評価した結果、
以下の3点を明らかにしました。 – 2 –
① 芳香族フッ素化によってペプチドの疎水性が向上すること
② 細菌膜上で抗菌活性に重要なαヘリックス構造が安定化されること
③ 細菌膜をより効率よく破壊できるようになること
さらに、MD シミュレーションによって、フッ素化したペプチドは負に帯電した細菌膜へ選択的に結合することが示され、実験結果
を分子レベルで裏付けました(図2)。
図2. MDシミュレーションによって明らかとなった、細胞膜に応じたペプチドの結合様式の違い。
細菌に対する抗菌試験では、すべてのフッ素化ペプチドが元のマガイニン 2 より高い抗菌活性を示し、最も優れた誘導体では
最小発育阻止濃度(MIC)が約10分の1まで低下しました。また、薬剤耐性プラスミドRP4を有する薬剤耐性大腸菌に
対しても優れた抗菌活性を維持しました。一方、多くの誘導体では赤血球に対する毒性の増加はほとんど認められませんでし
た(図3)。さらに、本研究では「フッ素を導入すればよい」のではなく、「どこに」「何個導入するか」が抗菌活性と安全性を決
定する重要な要素であることを初めて体系的に示しました。
図3. 天然抗菌ペプチド「マガイニン2」および本研究で開発された7種類の新規抗菌ペプチドの、赤血球に対する50%
溶血濃度と非耐性菌・薬剤耐性菌に対する最小発育濃度。値が低いほど高い活性を示すことを意味する。
今後の展開
本研究は、芳香族フッ素化が抗菌ペプチドの性能を向上させる有効な分子設計戦略であることを示すとともに、フッ素化の数
や位置を最適化することで、抗菌活性と安全性を両立できることを明らかにしました。今後は、より生体に近い細胞や動物モデ
ルで有効性・安全性を検証し、薬剤耐性菌感染症に対する次世代抗菌薬の開発へつなげることが期待されます。