細胞がストレス時にタンパク質合成を抑える際に働く酵素の一つであるヘム制御性阻害因子(HRI)について、その働きを解析しました。その結果、HRIの活性が「自己リン酸化による活性化」と「ヘムによる不活性化」という二つの制御によって精密に調節されていることが分かりました。
私たちの細胞は、必要なタンパク質を必要なときだけ作るよう合成量を厳密に制御しており、その乱れは病気の原因になります。ストレス時に合成を一斉に抑える「統合的ストレス応答(ISR)」では、4種類のキナーゼ(酵素)が翻訳開始因子eIF2αをリン酸化して合成を止めます。そのキナーゼの一つ、ヘム制御性阻害因子(HRI)は、鉄を含む色素分子ヘムの細胞内量を感知するセンサーで、ヘム不足時に自己リン酸化して活性化し、無駄なタンパク質合成を防ぎます。HRIは鎌状赤血球症の治療標的としても注目されていますが、ISRにおけるオン・オフの分子機構は未解明でした。
本研究では、ヒト由来HRIと各領域の欠失変異体を精製し、生化学的解析とAIによるタンパク質の構造予測を組み合わせて、HRIの働きを解析しました。その結果、自己リン酸化を受けたHRIのみが翻訳開始因子eIF2αと安定に結合することが明らかになりました。リン酸化を受けるThr488とThr493のリン酸基が近傍の塩基性アミノ酸と相互作用し、活性化ループの構造を変えてeIF2αとの結合を促す仕組みで、同様の制御様式は他のeIF2αキナーゼにも共通する可能性が考えられます。さらにヘムは、脱リン酸化型HRIのキナーゼ領域に選択的に作用し、その活性と自己リン酸化を抑えることも判明しました。
本研究は、HRIの活性が「自己リン酸化による活性化」と「ヘムによる不活性化」という二つの制御によって精密に調節されることを示しました。この知見は、HRIを標的とする鎌状赤血球症の新たな治療戦略の基盤になると期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学生存ダイナミクス研究センター(TARA)
岩崎 憲治 教授
島根大学医学部生化学講座
尾林 栄治 准教授
掲載論文
- 【題名】
- Regulatory mechanism of heme-regulated inhibitor through autophosphorylation-driven activation and heme-induced deactivation
(ヘム制御性阻害因子(HRI)の、自己リン酸化による活性化とヘム誘導性の不活性化を介した調節機構) - 【掲載誌】
- The Journal of Biochemistry
- 【DOI】
- 10.1093/jb/mvag046
関連リンク
生存ダイナミクス研究センター