新たな神経経路を発見 効率よく脂肪燃焼を促す

代表者 : 矢作 直也  

糖尿病や高血圧などの病気を引き起こす肥満は、医学的にも社会的にも大きな問題になっている。「楽にやせたい」と願う人は多く、ダイエットへの関心も高まっている。矢作直也准教授(医学医療系)の脂肪燃焼に関する研究成果は、そんな現代人への処方箋となるかもしれない発見だ。
 人間が動くためのエネルギーは主にグリコーゲンと脂肪の2種類が蓄えられているが、空腹時には肝臓内のグリコーゲンが減少。その際は体内の脂肪をエネルギー源として使うことが分かっていた。
 これらのことから、これまで肝臓は単なるグリコーゲンの貯蔵庫だと考えられていた。だが同准教授の研究で肝臓が自ら神経を通して脳に作用し、グリコーゲン低下を知らせる作用があることが判明した。

 そのメカニズムは、複雑だった。
 同准教授はこれまでの研究から、肝臓と脳をつなぐ副交感神経が鍵を握っていると推測。実験で、同神経を切断したマウスは通常のマウスよりも、体内の脂肪分解が進まないことを発見した。更に実験を進めると、副交換神経からの信号を脳が受信し、脳と脂肪細胞を結ぶ交感神経を通して、脂肪細胞の分解を促進する経路があることが判明した。
 ここで肝臓の登場だ。

 ここまでは神経の動きだけで脂肪分解が進むように見えるが、今回は新たに、肝臓のグリコーゲ量が一定量以下になった場合に、肝臓が自らその情報を副交感神経を通して脳に送ることも分かったのだ。
 今回の発見を応用すれば、肝臓と脳を結ぶ副交感神経を電気で刺激して、脂肪分解を促す治療も可能だ。また、肝臓が「グリコーゲン減少」を脳に伝える薬を開発すれば、肥満治療に新たな道が開ける。 矢作准教授は「今後は肝臓のグリコーゲン量を検知する仕組みをより詳しく解明し、肥満の治療法開発を後押ししたい」新たな神経経路を発見と話す。今後の研究の展次第では、より軽い負担で済むダイエットの手法が見つかるかもしれない。(原啓一郎=社会学類3年)