#056:図書館情報学から知識情報学へ(2016.04)

代表者 : 大庭 一郎  

図書館情報メディア系 大庭一郎(おおば いちろう)講師

 頭の中にある考えは、文字や画像など、何らかの形で外部に記録されて初めて、知識や情報として保存され、共有されます。古くは、洞窟の壁画や粘土板に刻まれた文字などとして記録されていましたが、時代とともに、印刷物、音声や動画も含めたデジタルデータへと情報メディアは変化してきました。それだけでなく、ネットワークの発達により、情報の利用方法も大きく様変わりしています。どの時代にあっても、情報を共有することは、新しい知識を生み出すための基盤でした。情報メディアの蓄積は社会発展のための知識資源なのです。大庭さんは、ダイナミックな変貌を遂げつつある情報メディアに対応する、知識資源の共有やそれに必要な人材の育成に取り組んでいます。

 印刷物を介した知識の共有を推進する機能を担ってきた図書館。図書館という仕組みを中心とした情報のやり取りを対象とした分野は図書館情報学と呼ばれてきました。しかし上述したように、図書館が果たすべき機能や情報共有のあり様は大きく変わってきています。図書館という箱に留まらず、情報知識の共有活用を学際的に研究する必要性から、知識情報学という分野が登場しました。情報は、数学や物理学だけでなく、哲学や法律などの側面からもアプローチ可能な分野です。そこでは、既存の文系・理系の境界に意味はありません。知識情報学は、真の文理融合を目指した先端的な領域なのです。

  学生の基礎学力を養うために自ら選書した書架

 近年、民間への業務委託の試みなど、公共図書館の経営について様々な動きがあります。大半の図書館は公的な資金で運営されており、私たちは無料で利用することができます。非営利の施設に、経営という概念はそぐわないという考え方もありますが、公費を投入するからこそ、求められる機能を最大限はたすための、しっかりとした経営戦略やマネージメントが必要とされます。図書館が提供するサービスの基本は、知識や情報が記された文献へのアクセスを容易にし、利用者の活動を支援することです。図書館の経費で最も大きいのは、書籍の購入やデータベースの利用契約など、資料の収集にかかる経費です。これは図書館の根幹に関わりますから、削減は困難です。そうなると、経費削減のしわ寄せは人件費にも及びます。図書館員の専門的知識や技能が今まで以上に問われることになります。情報をネットで検索するにしても、適切なキーワードがわからなければ的確で効率的な検索はできません。また、情報の信頼性を判断するリテラシーも必要です。図書館には、調べものの相談にのったり、課題解決の支援をするレファレンスサービスという重要な機能があります。起業家に対する知識支援に力を入れる公共図書館も登場しています。選書にしろレファレンスサービスにしろ、適切なサービスを提供するためには、急速に変化する情報メディアを捉えつつ、広い分野の基礎を理解していることが大切なのです。図書館情報大学を母体とする知識情報・図書館学類の学生にそのようなリテラシーを身につけてもらうために、大庭さんは、人文・社会・自然科学の多様なレベルの資料をそろえるなど、学生の学習環境の整備に注力しています。

書架を巡回する足取りは軽く、解説も滑らかだ。

 大庭さんと図書館との出合いは、通学していた熊本の小学校でした。そこには珍しく2つの図書館があり、紙の書籍だけでなく、教育番組などを収録したカセットテープの音声資料も収蔵されていたのです。本を読むことももちろん好きでしたが、それ以上に、いろいろな資料にアクセスできる図書館という場所に興味を持ちました。その頃から比べると、図書館の様相も、情報メディアのテクノロジーも劇的に変わりました。この先も変化は続くでしょう。図書館研究者にとってそんな劇的な時代に居合わせたことにワクワクしながら、大庭さんは次代を担う人材の養成に燃えています。

 (文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)

(2016.4.11更新)