インスリンによる3大栄養素間のバランス維持機構を解明〜インスリン発見から100年の節目に〜

代表者 : 矢作 直也  武内 謙憲  

2021.11.17

3大栄養素(タンパク質・糖質・脂質)はヒトの身体を動かす主要なエネルギー源であり、エネルギー産生栄養素とも呼ばれます。肥満・糖尿病など過栄養病態では、糖質から脂質へのエネルギーフローが亢進し、サルコペニアやフレイル(加齢による筋肉量の減少や活動量の低下)など低栄養病態ではタンパク質から糖質へのエネルギーフローが増加します。しかし、脂質から糖質への流れも、糖質からタンパク質への流れも逆流することはありません。すなわち、3大栄養素のエネルギーフローは一方向性であり、そのバランスは本来、厳密に制御されているはずです。過栄養病態や低栄養病態においては、そこに何らかの異常を来たしているものと考えられ、生活習慣病対策や高齢者の介護予防などの観点からも注目されてきました。

 

 インスリンは、タンパク質分解を抑制し、脂質合成を促進することでその制御に関与していることが古くから知られてきましたが、そのメカニズムの詳細はよく分かっていませんでした。

 

 本研究では、インスリンが3大栄養素(タンパク質・糖質・脂質)間のバランスを制御する仕組みを初めて解明しました。その仕組みとは、インスリンが遺伝子の発現を制御する転写因子FoxOを介して別の転写因子KLF15を制御し、そのFoxO-KLF15経路の働きによって、タンパク質代謝と脂質代謝の両方が協調的に制御されるというものです。本研究チームが独自に開発した、マウス体内の遺伝子の発現状況を可視化する解析系と転写因子のスクリーニング法を用いた成果です。

 

 今年は、インスリンが発見された1921年から100周年となる節目の年です。本研究はインスリンが関与する、肥満・糖尿病などの過栄養病態とサルコペニア・フレイルなどの低栄養病態の双方の病態解明に寄与するものと期待されます。